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北原夏美 四十路 初裏無修正

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[900] Booby Trap 44 投稿者:道化師 投稿日:2003/02/22(Sat) 01:45

ここに飼われるようになって間もなくの頃、恵美子は薄暗い地下の牢の中で、よくぼんやりと幸せだ
った頃を思い出していた。
(あなた、ごめんなさい・・・・○○○、○○○、元気でいるかしら・・・こんなバカなお母さんの
事は、早く忘れて・・・)
その頃はまだ感情が静まっている事が多く、そんな時、恵美子はこうして捨ててきてしまったはずの
夫や子供達のことを思い出し、しみじみと己の浅はかさを嘆いているのだった。

コンクリートが剥き出しの地下室は、牝豚に堕ちた今の恵美子が、常にもっともふさわしい姿でいら
れるよう、空調設備だけはしっかりと整っていた。
(ああぁ・・私はなんて浅はかだったの、今になってやっとわかったわ・・・・でも、もう遅いのね
・・・・・)
そこに据え付けられた檻の中で、素っ裸の肢体を鎖につながれ、自由を奪われたまま牡犬達の慰み者
になって過ごす暮らしは、恵美子に、嫌でも奴隷に堕ちてしまった女の哀れさを思い知らせるのだっ
た。
(ううぅぅ・・・淫らなこの肢体が・・恨めしい・・・・・)
そのため恵美子は、今更ながら淫蕩に生まれついてしまった我が身を呪って、一人涙を流している事
もあったようだ。
だが、そんな時でさえ、3匹の牡犬達に肢体を舐められると、覚え込まされた快感がその奥からざわ
めき始め、いきり立ったペニスを咥えさせられる頃には、もう総て忘れてしまい、
(はあぁぁ・・・貴方達、また私を可愛がってくれるのね・・・嬉しい・・そう、恵美子は牝犬に堕
ちたの、恵美子の肢体には、もう獣の匂いが染み付いてしまっているの・・ねぇ、早く・・・その大
きなお○ン○ンで、牝犬の恵美子をいっぱい狂わせて・・・・)
瞬く間に、ただ、牡犬達に獣の妻として扱われたいと望むようになるのだった。
それまで受けてきた数々の調教の成果は、確実に恵美子の肢体を蝕み、いまや人間以下の畜生に自分
が堕ちて行くというマゾ女特有の被虐感に、この上ないほどの悦びを見い出す女へと変わってしまっ
ていたのだ。

また恵美子は、食事も牡犬達と一緒に取るようになっていた。
牝犬にふさわしいドッグフードや残飯などの食事を、四つん這いの格好のまま、牡犬達に混ざって同
じ器から食べる事に対して、もはや何の抵抗感も感じなくなっていた。
最初は、犬の餌を食べる事にさすがに少し抵抗があったようだが、すぐに、悦びを与えてくれる夫達
と食事をともにする事も、獣の妻の当たり前の勤めとして受け入れるようになっていたのだ。
今では、牡犬達に対する嫌悪感など全く無く、むしろ彼らと同じように顔を突っ込み、手を使わずに
ガツガツと貪る事が、嬉しくて仕方が無いように見えるのだった。

さらに恵美子は、牡犬達にはじめて肢体を許した日から、すでに、唾液にまみれた舌を絡めあう、デ
ィープキッスを交わす事を厭わなくなっていたのだが、それどころか、完全に牝犬の悦びに目覚めて
しまった今では、どんなに長い間離れていたとしても、牡犬達の強烈な獣の匂いを嗅いだだけで、あ
っという間に、肢体の疼きが止まらないようになっていた。

そんな恵美子は、食事中でさえ、その発情を隠そうとはしなくなっていた。
牡を求めて露わに濡れる淫芯を晒し、顔だけは餌を食べているのだが、その淫らにくねる下半身はそ
んな事にはまるでお構いなく、厭らしい牝の香りを辺り一面にプンプンと撒き散らすので、すぐに堪
らなくなった牡犬達が挑みかかっていくのだった。
「あぁ~ん、そんな事されたら、恵美子いっぱい感じてご飯が食べられなくなっちゃうぅ~ん」
そんなときの恵美子は、とにかく牡犬達にかまって貰える事が堪らなく嬉しいらしく、その表情は禁
断の悦楽に身を焦がす一匹の牝犬そのものだった。
恵美子は、もう、牡犬達の疲れを知らない獣の性の虜になっていたのだ。
彼らにいいように主導権を握られ、その圧倒的な精力に服従させられる事で、魂までも痺れる、まる
で麻薬のような肉体の享楽に支配される暮らしに、頭のてっぺんから足の先までどっぷりと溺れてい
た。
今の恵美子には、牡犬達との爛れきったSEXの快楽に悶え狂う事だけが、生きている総ての目的だ
った。

こうして、獣の牡達にSEX漬けにされるという、まともな人間の女には想像すら出来ない異常な性
欲に浸りきった生活は、もともと恵美子に備わっていた、他に類を見ないほど際限の無いマゾ女の素
質を見事に開花させ、その肉体と精神を完全に変えてしまって行った。

恵美子は、今や全く自分をなくしてしまっていた。
常にSEXの事だけを考え、今が昼なのか夜なのかさえもわからなくなるほど、飽きる事の無い変態
性奴の暮らしに満足しきっていた。
そして恵美子は、肢体を悦びで狂わせて貰えるなら、誰とでも、また、どんな事でも何の抵抗も無く
できる女になっていた。
いや、むしろ、淫靡で背徳的な行為になればなるほど悦んでするという、昔の清楚で貞淑だった頃の
恵美子を知るものには、全く別人のような最低の変態マゾ女に成り果てていたのだった。

妻が戻らなくなってから半年の月日が流れた。
もはや誰も妻の失踪を疑うものは無く、残された私達家族も、やっと妻のいない暮らしになれ始めて
きていた・・・・・・
[905] Booby Trap 45 投稿者:道化師 投稿日:2003/02/23(Sun) 02:19

変わりつつあった現実の生活とは別に、私は、その頃になると、いつのまにか計画が狂い始め
ている事に少しあせりを感じ始めていた。
恵美子が戻らなくなって数ヶ月、最初のうちこそは、約束どおりにテープを届けてくれていた
彼らだったが、1ヵ月後に届いた3本目のテープを最後に、それが全くなくなってしまってい
たのだ。
それでも私は、しばらくの間、上川を信じて辛抱強く待っていたのだが、半年以上たっても、
やはりそのまま全く状況は変わらず、何の連絡も無かった。

そんなある日、とうとう業を煮やした私は、思い切ってこちらから連絡してみる事にした。
「トゥルルルル・・・・・・・」
数度の呼び出し音の後、電話に出た受付係に上川を呼び出して欲しいと告げると、しばらく待
たされた後、もったいぶるように、
「お久しぶりですね・・・○○さん、ご無沙汰しています。」
上川の、聞き覚えのある声が受話器から流れてきた。
私は、電話の向こうの上川に、早速、
「あれ以来、約束のテープが届かないのですが・・・・」
そう用件を告げた。
すると、上川は、
「悪いねぇ、こっちもなかなか忙しくてねぇ・・・・まあ、そのうち暇になったら、また届け
させますよ・・・・」
あまり気の無い口調で、少しも悪びれた様子も無くそう応えたのだった。
「そうですか・・・それはそうと、前に届けていただいたテープの様子から考えると、もう借
金の方もだいぶ減っているんじゃあありませんか?だいたい、いつ頃ぐらいに妻を自由にして
もらえるのですか?」
私がなおも食い下がると、
「そうですかぁ・・?そんな事はありませんよ。まだまだかなり残ってますんで、残念ですが、
それは当分先になるんじゃないかなぁ・・・わるいねぇ~、今日は忙しいんで、また連絡しま
すよ。では・・・・」
一方的にそう言って電話を切られてしまった。

私は、彼らからの連絡が途絶えたときから、何となく嫌な予感がし始めていた。
実は、最後のテーを見たとき、予想以上の売れっ子になった恵美子の様子を見て、この調子で
は、ひょっとすると上川達は、恵美子を私に返すのが惜しくなり、約束など無視して、このま
まずっと、妻を自由にする気などなくなってしまうのではないかと思うようになっていた。
そして、そのときの電話の雰囲気から、その危惧が本当になった事を感じていたのだった。

受話器を置いた私は、始めて、彼らを甘く見ていた事を後悔していた。
このままでは、二度と妻を取り戻せなくなってしまうという思いが急に現実味を帯びてきて、
ある種の恐怖感さえ覚え、その思いは、日が経つに連れますます強くなっていくのだった。
(せっかく夢がかない、妻を望み通りの女に変える事が出来たというのに・・・・このままで
は、もう一生妻と過ごす事はかなわないかもしれない・・・・)
それからというもの、私は、寝ても覚めても、何とかして妻を取り返す良い方法はないかと、
必死に考え続けていたのだった。
そうして、1年近くの月日が流れて行った・・・・

 そんなある日の事・・・
その頃、色々と思い悩んだ末にようやく一つの方法を考えついた私は、それを実行しようかど
うか散々迷っていた。
というのも、その方法には、成功と引き換えにある大きな代償を払うという重大な欠点があっ
たからだ。
その代償に、本当に私が耐える事が出来るのかどうか、自分自身でもよく分からず、その為、
どうしても決心がつかなかったのだ。

だがその日、私は久しぶりに上川に連絡を取る事にした。
しばらくの間、ずっと迷っていた私だったが、結局他に良い案は浮かばず、やっと腹を決めた
のだ。
とにかく、一か八かその計画に掛けてみようと決心したのだった。

まず私は、直接上川に電話をした。
そして、相手が用心深く突然の電話の用件を探ろうとするのを、しばらく当り障りの無い話を
してはぐらかし、一段落ついて気を緩めた直後唐突に、
「それから、突然なのですが、どうでしょう、いつでもそちらの都合のいい日にあわせますの
で、近いうちに一度、妻の出演するショーを直に見物させてもらえないでしょうか?」
そう申し出をした。

予想通り、あれ以来二度とテープは届かなかった。
私は、その日まで、何とか妻の様子を知ろうと、幾度となく上川にテープの催促をしようと思
ったのだが、その都度、最後の踏ん切りがつかず、いつも連絡を取る寸前で思い留まってしま
っていたのだった。
そのため、結果として、調教に招待された日以来、私は一度も、直接妻の姿を見ようと上川達
に申し入れをしていなかった。
そのせいか上川は、何故私が急にそんな事を申し出たのか、また、こちらの真意がいったい何
なのかわからず、まるで探るように少し怪訝な調子で、
「それはいいのですが、そうなると、以前のように顔を隠せないので、下手をすると、今まで
の計画に貴方も関係していた事が、恵美子にバレてしまうかもしれませんよ。いいんですか?
まあ、こちらはそうなっても一向に構いませんがね・・・・」
と、言うのだった。
が、それでも私が、
「その事なら、大丈夫ですよ。私の方は、ここまで来たら恵美子に顔を見られるぐらいはかま
いませんから。それにもう恵美子も自分の事で精一杯で、きっと、これぽっちも疑う事はない
と思いますよ。だから、そこへ行ったのは取引先に接待ででも連れて来られた事にするとか、
とにかく、偶然連れられて来た様に装えば大丈夫でしょう。是非お願いします。」
そう言って、その後もさらに熱心に頼むので、
「まあ、そうまでおっしゃるなら・・・まあいいでしょう、一度考えてみましょう。」
さすがに、私の企みには気づかずに、最後には、根負けしたようにしぶしぶそう言って電話を
切るのだった。

それからしばらく経ったある日、首を長くして待っていた私のもとに、やっとの事で上川から
連絡があった。
「この間の件ですが・・・ご主人の熱意に負けましたよ・・・あれから恵美子の様子もずいぶ
ん変わりましたから、きっとビックリされますよ。それまで、楽しみに待っていてください・
・・」
上川は、そう言って日にちと時間を指定してきた。
私は、二つ返事で了承し、その後、代わった担当の男といくつかの細かい点の打ち合わせをし
て、その日は電話を切るのだった。

約束の日がくるまで、私の胸中は複雑な思いで一杯だった。
夢にまで見た妻にやっと会えるという思いと、例の計画がうまくいったときの恐ろしい結果の
事を考えて、ぐっすり眠る事も出来なかった。
そんな期待と不安が入り混じった数日間の後、とうとう約束の日が来たのだった。

当日、私は事前に打ち合わせた通り、恵美子の知らない上川の手下と途中で落ち合い、一緒に
恵美子の出演するクラブに出かけた。
そして、さっそく店の中に入ると、そこは会員制で、一般の客は制限されているにもかかわら
ず、すでにかなりの客が入っていた。
相変わらず、恵美子が出演する日は結構はやっているようだった。私は、進められるままに一番奥にあるテーブルに腰を下ろすと、改めて目を凝らして店の中を
見回した。
すると、かなりの数の女性客がいる事がわかり、それには正直驚いたのだった。
また、すぐにそこが、以前、私が上川から届けられたビデオの中に映っていた場所とは、明ら
かに違っている事に気がついた。
そのことを連れの男に尋ねると、
「ライブショーは、別の部屋でやるんです。ここで別に見物料を払わないと見られないように
なってるんですよ。」
そう応えた。
しばらく二人で酒を飲んでいると、上川がやってきて私の前に座った。
「しばらくですね、突然、恵美子のショーが生で見たいなんておっしゃるんで、ビックリしま
したよ。」
そう言って酒を勧めるのだった。
「なかなかテープが届かないので、それならいっそのこと、久しぶりに直接変わり果てた妻を
見てやろうと思いましてね。それより、妻を約束通りの女にしていただいた御礼をしてません
でしたね。」
私が応えると、
「いいえ、礼なんてこっちが言いたいぐらいですよ。今や恵美子はうちの店では一番の人気者
でしてね、ご覧のとおり、恵美子のショー見たさに今日もこの通りの大入りですよ。」
そう言って笑った。

気がつくと、いつに間にか店は一杯になっていた。
「話は変わりますが、この間の電話でお願いした、恵美子を自由にしていただく件ですが・・
・・少しは考えていただけましたか?これだけ繁盛していれば、そろそろ返済の目途もついた
んじゃあないんですか?どうかお願いします。」
私は、上川に訴えた。
「この前も話した通り、利息がかなり溜まってましてねぇ・・それにテープでご覧になられた
と思いますが、恵美子の肢体の改造にもかなり金がかかりましたんで、まだまだ先になります
ねぇ・・・・そんな事より、遠慮しないで、今日はゆっくり楽しんでいってくださいよ。」
しかし、上川はつれなくそう応えると、時計に目をやり、
「さぁて、そろそろ私は消えますよ。さすがに私と一緒にいるところを恵美子に見られたらま
ずいでしょう。それでは、また後ほど・・・・」
そう言って去っていった。

「いいですか?そろそろですよ。」
連れの男がそう言ったとき、店の奥から右手に鎖を持った男が現れた。
そして、それに続いて、男の手にした鎖の先につながった首輪を、その首にしっかりとはめら
れた女が出てくるのだった。
[918] Booby Trap 46 投稿者:道化師 投稿日:2003/03/08(Sat) 02:26

女は意外にも、こんな場所に登場するにはまるで不釣合いな、床まで届くロングスカートで、
いかにも良家の奥様と言わんばかりの清楚なワンピース姿だった。
私は、視線を上に上げ女の首から上を見た。
するとそこには、その慎ましやかな服装とは正反対に、まるで、今からのこの女の運命を暗示
するかのごとく、ライトの下で鈍く輝く鋲で飾られた首輪と、禍々しく縁取られた黒いアイマ
スクを着けた女の顔があった。
そのアイマスクはかなりコンパクトなサイズで、なるべく顔を伏せようとする女の意思に反し
て、申し訳程度にしかその顔を隠してはいなかった。
したがって、その下から上品な目鼻立ちや、楚々とした口許がはっきりと見て取れ、妻を良く
知っている者が見れば、きっと、一目でそれが誰だかわかってしまうのではないかと思われる
のだった。
だが、私はあえて気がつかない振りを続けることにした。

「前に私が見たテープでは、いかにもその手の女のような容貌に変えられていたのですが、今
見ると、髪も黒髪に戻っているようですし、化粧もほんのり薄化粧程度ですね・・・・」
私は、最初に女を見たときから思っていた疑問を、周りに聞こえないような小声で聞いてみた。
「ええ、前はもっとケバケバしかったんですが、一見ごく普通の、何処にでもいるような人妻
が驚くほどの狂態を見せる方が客の反応がいいんで、最近はずっとこの姿なんですよ。」
「へぇ~そうなんですか・・・・」
「貞淑に過ごしてきた分別盛りの人妻も、一皮剥けば、実はとんでもない変態女だったという
のがウケるんです。頭では嫌がりながらも、そのうちに、隠れていた己の性に負け、最後には、
肢体の疼きに身も心も支配され変態的な性の泥沼に堕ちてしまうなんていうのが大人気なんで
すよ。今、人妻らしい恥じらいを見せている女が、後になると、肢体の奥で燃え上がる悦楽を
渇望する牝の欲求に、これが同じ女だろかと目を疑うような狂態を見せ、我を忘れて狂乱の中
で悶え狂うところが、何とも堪らなくそそるみたいなんです・・」
「なるほどねぇ~・・・・・」
「特に奥さんの場合は、気品のある顔立ちと、その肢体に刻み込まれた数々の強烈なマゾ女の
証が示す通り、誰もが信じられないほどの変態的性質とのギャップが、客達の間で引っ張りだ
こなんですよ。それに、奥さん自身も、あの格好のほうが恥じらいの気持ちが強くなって、い
っそう被虐感が燃え上がるようなんです。とにかく一旦肢体に火がついたときの乱れようとい
ったら・・・まあ、ご主人を目の前にして言うのもなんですが・・私も、今までいろんな変態
女や淫乱女を見てきましたけど、その中でもあの女は、一、二を争うほどのどうしようもない
色キチガイですぜ・・・・・・」
「・・・・・・・・」
私は、黙って感心するしかなかった。

私たちがそんな事を話しているうちに、男に連れられた女は首輪の鎖を引っ張られ、ヨロヨロ
しながらフロアの真中まで来て立ち止まった。
すると、客達がすぐそれに気づき、ざわついていた店の中が急に水を打ったように静かになる
のだった。
男は、ぐるりと店の中を見渡し、客達の視線が女に注がれているのを確かめると、
「皆さん、お話中すみません。今からここに居ります女が一言ご挨拶を申し上げますので、少
しの間、お時間を頂戴いたしますようお願い申し上げます。」
そう言うと、女に目で合図を送り、素早くその後ろに回った。
そして、女の肩越しに手を回すと、慣れた手つきでそのボタンを外し始め、ゆっくりとワンピ
ースを脱がして行くのだった。

店中の総ての瞳が固唾を飲んで見守るその中で、とうとう最後のボタンが外された。
客達が発する、痛いほど突き刺さるような視線を楽しみながら、男は、もったいぶるようにワ
ンピースの前をはだけると、女の肢体から『はらり』と、取り去った。
その瞬間、
「おおっ」
と言う、客席のどよめきが聞こえた。
ワンピースの下から現れた女の肢体を見ると、まるでバニーガールのような黒いボンデージス
ーツと、膝まであるピンヒールのブーツを身につけていた。

客達の好奇の眼差しの中、男は上着のポケットから皮の手錠を取り出すと、すぐに女を後ろ手
に拘束するのだった。
「ねぇ、あの女、見た目よりうんと厭らしい身体つきしてると思わない・・・・?」
「そうね・・・服を着ているときは品のいい主婦って感じだったけど・・・こうしてよく見る
と、顔の感じと比べて身体の方は妙に淫らな雰囲気ね・・・」
「そうだな・・・そう言えばマスクから覗くあの顔だけを見ると、本当に可愛い奥さんて感じ
だけど、首から下は、まるで男を誘う娼婦みたいだな・・・」
その間も、客達のざわめくような囁きがあちらこちらから聞こえていた。
女は、その罵りにも似た軽蔑の空気がフロアーの一杯に渦巻く中、徐々に気持ちが高ぶってき
ている様子だった。
よく見ると、女は何故か伏目がちなその顔をほんのり紅らめ、もじもじとしきりにその肢体を
くねらせていた。
耳を澄ますと、女の股間のあたりでかすかなモーターの音が響いていた。
きっと、女陰にバイブを仕込まれているのだろう、それでなくてもあの敏感に改造されたクリ
トリスだ、今はもう、見るからに立っているのがやっとと言う感じだった。

「準備が整いました。それでは、お聞きください。」
男が声を発すると、ざわめきが収まり、再び店の中にひと時の静寂が訪れた。
「この女、自分の肢体に流れる淫蕩な血に負け、夫と子供を捨て、己の快楽のみに生きる事を
誓った淫乱マゾ女です。この後、奥の特別ステージで、この牝豚奴隷のショーがありますので、
是非見物していってください。さあ、お前も皆様にお願いするんだっ!」
まず、男の方がもったいぶったように、興味津々で目を輝かせている客達に向かって、一言そ
う言うのだった。
すると、女も続いて、
「わっ、私は、変態人妻奴隷の恵美子と言います。お願いですっ!どうかこの後、恵美子のS
Mショーを心行くまで楽しんでいってくださいっ!!」
かなり感じてきていると見え、マゾ女特有の甘えるような声でそう言うと、
「ふぅっ・・・・・」
と、媚びるようにため息をついた。

それから女は、男に首輪の鎖を引かれながら、顔には苦悶の表情を浮かべて、四つん這いにな
って店の中をゆっくりと回りだした。
そして、同性からは容赦なく侮蔑の視線を浴びせられ、男達からはからかうような好色な言葉
をかけられているうちに、その肢体はどんどん被虐の炎でめらめらと高揚し始めた。
半分ほど這いずり回った頃には、もうすでに相当感じているのだろう、
「あぁっ~~・・・・うっぅ~~・・・・・」
淫らな喘ぎ声を上げ、まるで回りの男を挑発するように、肢体を妖しくくねらせていた。
よく見ると、ボンデージスーツの股間から愛液が溢れ出し、内腿を伝わって床に滴り落ち、女
の通った後に一本のキラキラ光る筋を作っていた。

女は、どす黒い快楽の渦の中に浸りきって何も目に入らないのか、それとも、まさかこんな場
所に私がいるとは夢にも思っていなかったのか、そのまま気づかずに私たちの前を通り過ぎて
いった。
私は、女が私の前を過ぎて行った時、今まで嗅いだ事のない、何ともいえない淫らな香りが女
の肢体から漂っているのを感じていた。

そうして、女は客達の舐めるような視線にその淫蕩な肢体を晒しながら、店の奥に戻って行っ
た。
「どうです、久しぶりに生で見る奥さんは?」
男がニヤニヤしながら聞いてきたが、私は、言葉を失ってただ黙ったまま、身体の奥から沸々
とこみ上げてくる、何ともいえない陰鬱な快楽に酔っているだけだった。
そのまましばらくは、気持ちの高ぶりを感じながらもどうする事も出来ず、目の前の男の言葉
も上の空でまるで耳に入らなかった。
私は、じりじりと身を苛まれる焦燥感の中で、それでも、はやる気持ちを必死に抑えながら、
とにかくうわべだけは平静を装うとしていた。
まるで、祭りの前のような高揚した雰囲気の中で、私は、目に見えない何かに追い立てられる
かの如く、永遠にも思える時間から逃れようと、ひたすらのどの渇きにかこつけて酒を浴びつ
づけるのだった。

しばらくは、そんな怠惰な中にも痺れるような甘ったるさを含んだ時間が過ぎていったが、や
っと待ちわびたショーの始まる時間が来た。
「それじゃ、ぼちぼち奥へ行きましょうか。」
そう言って男が席を立った時、私は、危うくその言葉だけで絶頂に達してしまうところだった。
だが、かろうじてそんな失態を見せることなく踏み止まった私は、とにもかくにも男の後に続
いて、期待に高鳴る胸を躍らせながら、そのまま店の奥にあるステージのある部屋に入って行
った。

そこは、私がビデオで見慣れた部屋だった。
部屋の中央にはライトに照らされたステージがあり、少し暗くなった周りにはすでにかなりの
見物人が集まっていた。
上川が気を利かせてくれたのか、私達は、ステージのすぐ前のショーが一番良く見える、いわ
ゆる特等席に着く事が出来た。

そして、いよいよ長い間待ちに待った、私と恵美子の運命を決めるショーの幕が開いたのだっ
た・・・・・・
[929] Booby Trap 47 投稿者:道化師 投稿日:2003/03/15(Sat) 03:19

席についた私は、期待と興奮で今にも胸が張り裂けそうだった。
自分自身、滑稽なほど緊張していると言う事実を、硬く握り締めた拳の振るえと、じっとりと
汗ばんだ掌の熱さで、イヤと言うほど思い知らされていた。
だが、そんな事にはお構いなく、すべては着々と進んで行くのだった。

突然、部屋の照明が暗くなり、次の瞬間、後方からスポットライトが部屋の入り口を照らした
かと思うと、その光の輪の中に、鎖を携えた男にエスコートされながら一人の女が現れた。
そして、男に連れられた女がステージの中央まで引き出されると、それを待っていたかのよう
に、ステージ全体がパッと明るくなった。
「おおぉお・・・・・っ」
すると、思わず観客から驚嘆のざわめきが上がった。
そこに現れた女は、はっきりとは分からなかったが、その雰囲気からして、どうやら先ほどの
女のようだった。
と言うのも、先ほどとは違って、今、私たちのすぐ目の前に立っている女は、アイマスクの代
わりに、目と口と鼻だけが見える、黒いマスクで顔をすっぽりと覆われて、その口には枷をは
められ、さらに、首から下を真っ黒なマントで覆い隠していたからだ。
ただ、女の登場で観客がざわめいた一番の原因は、男が手にした鎖の先が、先ほどのように女
の首輪に繋がっているのではなく、その顔の中央に屈辱的にぶら下がる、しっかりとした鼻輪
に繋がっていたためだった。

女は目を瞑り、顔を伏せ気味にして、何かに耐えるようにじっと立っていた。
「本日は、変態人妻、牝犬恵美子のSMショーにご参加いただきまして、誠にありがとうござ
います。さて、皆様お待ちかねの特別ステージの始まりです。この後、恵美子が淫乱マゾ奴隷
に堕ちるところを、どうか心行くまで楽しんでいってください。」
そう言うが早いか、男は、女の鼻輪に繋がれた鎖を外した。
『ジャラリ・・・・・』
静まり返った部屋の中に、解き放たれた鎖が奏でる音が響いた。
その音の余韻が、その場にいるもの総てを金縛りにする中、女の顎に手を添えた男は、おもむ
ろにその顔を上に上げさせるのだった。
それから、女の肢体をなぞるように背後に回ると、顔を上げさせたまま、その首の後ろにある
結び目をゆっくりと解いて行った。

重く沈んだ空気の中で、唯一、女の発する荒い息の音だけが聞こえていた。
その場の禍々しい緊張感を盛り上げるためか、男は、わざと時間をかけてゆっくりと結び目を
解いて行った。
「さあ、今からその恥知らずな肢体を、お集まりの皆さんにじっくり見てもらうんだ、覚悟は
いいな・・・・・」
女の肢体を隠していた黒いマントが、男の手によって一気に取り去られた。
すると、固唾を呑んで見守っていた観客から、
「うおおおぉー・・・・っ」
と言う、あきれたような歓声が上がった。

そこに表れた女の姿は、先ほどとはまるで違っていた。
女は、飾り毛の全くない股間にくっきりと表れた、女の悲しい性の源である一条の割れ目だけ
を、ほとんど申し訳程度に隠しただけの、黒い皮製のTバックショーツ一つしかその身につけ
ていなかった。
当然、両胸や股間の土手に刻み込まれた恥ずかしい文字、下腹部に彫られた見事な男性器の刺
青、少し垂れ気味で、乳牛のように改造された乳房と、その先で厭らしく尖る、こげ茶色の巨
大な乳首に着けられたシルバーのピアスなど、隠しようのないマゾ女の証が観客の好奇の視線
に晒されていた。
「すっ、すごいっ!本当に変態だっ!!」
「あんな肢体にされて嬉しいなんて・・・・私には、とても真似できないわっ!」
そのあまりにも強烈な光景に、きっと初めてこの女の肢体の全容を目の当たりにした観客達か
らだろう、あちらこちらから感歎の声が上がった。
そして、驚きで見開かれた観客達の目が、一斉に女の肢体にくぎ付けになっているのをじっく
りと見届けた男は、
「皆さん!見ての通り、この女は、こんなみっともない彫り物を肢体中に入れられて、大勢の
視線に晒され、罵られ、蔑まれる事が嬉しくて堪らない、どうしようもない変態マゾ女なんで
す!!」
まるで、観客達の反応を楽しむかのようにそう言うのだった。
「はぁ~・・・・・」
女は、早くも感情の高ぶりを隠そうともせず、何ともいえない甘美なため息を漏らしていた。

ひとしきり客達のが囁きあうのを聞いていた男だったが、
「皆さんあきれた顔をしてお前の事を笑ってるぞ、良かったなぁ~嬉しいだろ。さあ、今度は
後ろを見てもらうんだ!」
しばらくするとそう言って、女の両手をつかんでそのまま万歳をするように上にあげてしまっ
た。
それから、その感じている肢体の様子とは裏腹に、しきりに首を振ってイヤイヤをする女を、
背中が観客に見えるように、無理やり振り向かせて行くのだった。
「キャーっ!イヤだ、何、あの刺青、ウソでしょっ!」
「うへぇ~っ!ここまで凄い変態女は今まで見た事がないぜっ!」
「あんなみっともない肢体にされて、よく生きていられるわね・・信じられない・・・・」
後姿を晒した女の、背中一面に描かれた、蜜を溢れさすグロテスクな女性器の刺青と、尻に彫
り込められた目を疑うような文字を見た観客からは、もはや驚きを通り越して、哀れみの嘲笑
さえ上がっていた。

 しばらくの間、蔑視と好奇の視線の中に女を晒していた男だったが、十分にその効果が上が
っているのを見届けると、再び女の肢体を反転させて、観客の方に正面を向かすのだった。
女の表情は、相変わらず目を瞑って何かを必死に耐えているように見えたが、淫靡に飾られた
肢体をよく見ると、その胸を大きく波打たせ、込み上げてくる禁断の悦びを抑えきれないのか、
ブルブルとかすかに震えてさえいるのだった。
(あぁっ・・・・恥ずかしいわ。見世物になっているのね・・・でもいいの、こんなみっとも
ない肢体にされた恵美子を、もっと蔑んで・・・私はマゾ女・・惨めになればなるほど、お○
ンコが疼くの・・・嬉しい・・うぅっ・・もう堪らないぃ・・・)
蔑まれる事で、被虐の感情がどんどん高ぶっていくのだろう、もうすでに、女の股間はショー
ツから溢れ出た愛液で、小便を漏らしたように内腿までビッショリと濡れていた。
『ツー・・・・』
そこから滴り落ちた雫が幾筋もの線を作り、煌々と照らすライトに反射してキラキラ輝いているのだった。

「お前は牝豚だろ、それなら豚らしく四つん這いになるんだっ!」
男は、そう言いながら『ピシっ!』という甲高い音をさせて手渡された鞭でその尻を叩くと、
ステージの中央で女を四つん這いにさせてしまった。
「顔を上げてお客さんの方を見るんだ。」
『ピシっ!』
さらにもう一度女の尻を鞭打った男は、
「クゥゥ・・・・・」
口に噛まされている枷のせいで、くぐもったような呻き声しか出せない女の、苦悶に歪む顔を
上げさせた。

もう女は目を瞑っていなかった。
最初、ぼんやりと霞んでいた女の瞳だったが、だんだんと焦点を取り戻すに連れ、周りの様子
がはっきりとわかりだしてくるのだった。
そして、その視界の中に、真正面にいる私達の姿を捕らえた。
その瞬間、マスクから覗く女の瞳が、驚いたように『カッ』と、大きく見開かれたのを、私は
見逃さなかった。
(そっ、そんな・・・・どうして・・・・どうしてあのひとがここに・・・・・)
「どうです○○さん。たまにはこんなショーも趣向が変わっていて面白いでしょう。とにかく
ここまでの変態女は他じゃまず見られませんから、話の種に、絶対一見の価値はありますよ。」
「それは、楽しみですね・・・・」
「そう言えば、確か・・・出て行かれた奥さんも恵美子さんて名前じゃなかったですか?なか
なかお綺麗な方だったと聞きましたが、ちょうどあの女ぐらいの年齢じゃありませんでした?
私は、残念なことに一度もお目にかかったことはありませんでしたが・・・まさか、本人だっ
たりして・・・・」
「ははは・・・まさか、この女は、まるで化けモンじゃありませんか・・・あいつは、こんな
大胆な事が出来る女じゃありません、ただまじめなだけがとりえの女でしたよ。それに、こん
な男好きのする身体つきはしていませんでしたし・・・大体、SEXなんてまるで義務だから
しょうがないと、半ばイヤイヤしているようなものでしたから・・まあ、今日はその話はいいじゃないですか・・・・」
「冗談ですよ・・・・すみません。そんな小説みたいな事が、本当にあるはずないですよね。
ついうっかり嫌な事を思い出させてしまったようで、なんとお詫びを言えばいいのか・・・・
さあ、もう今からはそんな事は忘れて、今日は最後まで楽しんでいってくださいね。その代わ
りと言っちゃあ何ですが、今度の仕事の方も頼みますよ。」
「ええ、分かってます。でも、こちらこそいつも気を使っていただいてもらって・・・悪いで
すねぇ・・・」
私達は打ち合わせどおり、わざと女に聞こえるようにそんな話をしたのだった。

その間も、女は鞭で肢体を叩かれながら、ステージの上を、腰をくねらせながら這いずり回っ
ていた。
(いやっ!だめよ・・こんなことって・・・・これでは、本当にもう・・・なっ、何とかしな
くては・・・・・)
だが、突然、視界の中に予想だにせぬ人間の顔が飛び込んできたためか、それまでとは違い、
明らかに混乱しているようだった。
動揺のためなのか動きが硬く、喘ぎ声も、先ほどより少しぎこちなくなっているのが隠し様もなかった。
(あぁ・・・いったい、どうすればいいの・・・・・うっ・・・・だ・・め・・っ・・・・・
肢体が・・かっ、勝手に・・・・)
「この恥知らずな牝豚がっ!さあ、もっとケツを振れっ!そうだ、その調子で、厭らしく這い
ずり回るんだっ!!」
(ああぁぁ・・・あの人に見られてる・・・・とっても厭らしい、恥知らずで色キチガイな恵
美子の本当の姿・・うぅぅ・・・感じる・・・何故、何故なの?この感じ・・・・堕ちる・・
堕ちていく・・・恵美子・・いったいどうなっちゃうの・・・?)

しかし、男の容赦のない責めを受けているうちに、途中から、徐々に声の感じが変わってくる
のだった。
(もう、ダメね・・・・・いいわ・・・・恵美子、とことん堕ちるわ・・・・・・)
「くぅぅぅ・・・ひっひっ・・・・・」
どうやら、はかない抵抗もここまでだったようだ。
どうあがいたところで、所詮性奴に堕とされた身、以前ならともかく、今の恵美子の浅ましい
肢体ではあがらえるはずもなかった。
(あなたぁ~~・・・もっと見て頂戴ぃぃ~~っ!!私よぉ~っ!こんな恥ずかしい肢体にさ
れた、淫乱で最低の変態女は、貴方の妻だった恵美子なのよぉぉぉ~~っ!!!)

すでに、汚らわしい肢体にされて悦びに狂う様を、この世で一番知られたくない私に見られて
いる事が、最高に被虐感を煽り、狂おしいまでの快感を与え始めているのだった。
惨めな姿を晒す事に、この上ない悦びを感じるマゾ女の習性が極まって、今や、破滅という奈
落の底にまっ逆さまに堕ちていく事が、究極の悦楽を恵美子に与えていた。
(あぁ~~!!もっとぉぉ~~っ!!もっと強くぅ~~~っ、マゾ豚の恵美子をぶってぇぇ~
~~っ!!!)
女は、口枷で閉じられないようにされた口から、とめどなく涎を垂らし、
「ひぃぃぃ~~っ、うぉぉ~~~っ!!あうぅぅ~~~っ!!!」
と、相変わらずくぐもった呻き声を上げる事しか出来なかった。
だが、その肢体からはまるで目の前にいる私を挑発するかの如く、
陽炎のように発散する色香
を撒き散らしていた。
そして、最後には、鞭の音が小気味よく響く中で、朱色の筋を一面に走らせた腰を、媚びるよ
うに厭らしく打ち振りながら這いずり回っているのだった。
[933] Booby Trap 48 投稿者:道化師 投稿日:2003/03/18(Tue) 23:56

ひとしきり鞭攻めで狂わされた女は、次に、おもいっきり股間を開かされ、ステージの中央で
仰向けに寝かされていた。
女がぜいぜいと喘ぐ度に、さすがに若い頃の張りを失ってしまい、大きく横に広がった二つの
乳房が小刻みに揺れているのが、妙に私の心をそそるのだった。
すると、その前に立った男が
「よ~し恵美子、やっと調子が出てきたじゃねぇか、それじゃあもうこんな邪魔なモンとっち
まおうな。」
そう言うと、女の汗と愛液でヌラヌラと光るTバックのショーツを股間から取り去るのだった。

もう女は何の抵抗も示さず、男のされるがままになっていた。
マゾ女の発情の匂いが染み付いたショーツを、両足からゆっくりと外した男は、そのまま女の
後ろに回り、その上半身を起こさせるのだった。
「さあ今度は、恵美子の一番恥ずかしいところを、みなさんにタップリとお見せするんだぞっ、
いいなっ!」
「ふぁっ、ふぁいっ・・」
女が不自由な口でそう答えると、男はその両脇から手を入れ、まるで幼い子供が小便をすると
きのように両膝を抱え、隠されていた下半身を全て露わにした。

「ほ~ら、恵美子の可愛いオ○ンコとケツの穴が丸見えだ、おっ、なんだぁ~どっちの穴もバ
イブが顔を出してるじゃねえか。よ~し、全部出してみろっ!」
 『ズボっ・・ヌチャっ・・・』
女が力を入れ力むと、卑猥な音とともに、それまで前後の穴に入っていた、湯気をたて愛液で
滑る巨大なバイブ(後ろのものですら、コーラビン程の大きさで、あんなものが二本も入って
いれば、中で擦れて、堪らなく感じてしまうのもよく分かる)が出てきた。

「おいおい、前の穴も後ろの穴も開きっぱなしじゃねぇか。そんなに可愛がって欲しかったの
かぁ~。」
女は、男に抱きかかえられた格好のまま、下腹部に異様な存在感を示す男根の刺青の下で、淫
らにヒクつく巨大な淫核を貫いているピアスを震わせていた。
よく見ると、その下にある、閉じる事ができなくなってぽっかり開いた二つの穴からは、まる
で洪水のようにダラダラと白く濁った汁を流しつづけているのだった。
久しぶりに見た恵美子の股間は、一年前に見たときとは比べ様もないほど見事に変えられていた。
それは、まるで別人のものかと思えるぐらい、驚くほど淫らに改造させられていたのだ。

毎日、巨大になるように吸引されつづけたクリトリスは、今はもう小指の先ほどの大きさにな
って、その悦び高まりを示すように堅く勃起しているのがはっきりと分かった。
また、飾られているピアスも数が増え、おまけに縦にも一つ貫いていた。
さらに、その下にある淫唇はビロビロに延びきってしまい、全く割れ目に収まりきらずに大き
くはみ出していたし、ここを飾るピアスも数が増えていた。
そしてその色は、常に恵美子が発情して淫ら汁を滴らせているために、見事なまでに淫水焼け
して、赤黒かったものが、いわゆる淫売のお○ンコのドドメ色といわれる色に変色していた。
肛門にいたっては、過激な、アナルを使ってのSEXのし過ぎからか、爛れたように醜く盛り
上がって、見るも無残な状態になっていた。
もはや、自分の力では完全身閉じられないようになってしまっているようで、まあ恵美子は下
着など着けないのでいいのだが、仮に着けたとしても、あの緩みきった尻の穴では、すぐに汚
れてしまってとてもその意味をなさないだろうと思われた。
そして、その周りはグロテスクに盛り上がり、一目見ただけでこの女がいかに変態かというの
がよく分かるのだった。
私は、その変わり様に声も無く、ただひたすら固まったように見入っているだけだった。

「うぉっ、うぉぉ~~~っ!!きぃぃぃ~~~っ!!!」
(早く~!恵美子をメチャメチャに感じさせてぇ~~!!)
男がその手を離しようやく自由になった女は、もうあたりはばかる事無く責められる事を請い
願っていた。
そのたわわに揺れる胸を弄りながら、床の上でまるで意思を持っているかのように蠢いている
バイブを手にとったかと思うと、大きく開げた股間に何のためらいもなく突き立て、そのまま
激しくまさぐっているのだった。
その姿は、清楚で上品だったかつての面影などもはや微塵もなくなっていた。
 
「どうですか、凄いモンでしょう・・・」
隣の男の囁くような声で、私は『はっ』と我に帰った。
「えっ、ええ・・・もう何も言う事はありません。それより、一つ聞きたいのですが、妻は最
後まであの覆面を被ったままなのですか?前はあんなもので顔を隠していなかったように思う
のですが・・・・」
私は、ちょうどよい機会なので、周りに聞こえないように小さな声で、さっきから心の底に引
っかかっていた事を聞いてみた。
「そんなことはありません、多分もうそろそろ素顔を見せると思いますが・・・・それがどう
かしましたか?何か、都合の悪い事でもあるのですか?」
「いっ、いいえ・・・何でもありません。ちょっと聞いてみただけです。そうですか・・それ
はよかった・・・」
私は、内心ほっとしていたが、それを連れの男に気付かれないように、あくまで表面上はなん
でもない振りをしていた。

私たちがそんな話をしている間も、しばらくはニヤニヤと笑いながら女の好きなようにさせて
いた男だったが、そのうちに別の男から蝋燭を手渡されると、舌舐めずりをしながら再び女の
背後に回って行った。
「まだまだ、お楽しみはこれからだぞ恵美子、そらっ!」
蝋燭に火をつけた男は嬉しさで顔を醜怪にゆがめ、女の肢体めがけて真っ赤な蝋の雫をタラリ
タラリと垂らして行くのだった。
「ビィィっ~~!ぎ、ぎぼぢいいぃ~~!!ぼっどぉぉ~~・・ぼっどかけでぇぇ~~~っ!
!!ぼ、ぼ○ンコ、ぼ○ンコにぼ、かけでよぉぉぉ~~っ!!!」
すぐに、肢体中を赤い蝋で飾られてしまった女だったが、それでもまだ心の飢えを満たすには
程遠いらしく、口枷の隙間から精一杯の叫び声を上げているのだった。

気がついたときは、すでにもう、阿鼻叫喚の世界だった。
女は、いつに間にか3人に増えていた男達によって
「この、きりのねぇ牝豚がっ!!」
「ほら、もっとよく見えるようにお○ンコを広げろっ!!」
「ふごぉぉーーっ!あうぅぅぅーーーーっ!!!」
罵声を浴びせられ、面白いように嬲られていた。
男達は、まるで大好きな玩具を与えられた子供のように、やりたい放題に女をいたぶるのだっ
た。
「おい、そこにあるシートを敷いたら、その上で四つん這いにして股を開かせろっ!今から、
こいつで、この豚女の腹の中を綺麗にしてやるっ!!」
「あがぁぁーーっ、うれひぃぃーーっっ!」
「そらよっと」
「くぅぅぅーーっ、ぼっとぉぉーーーっ、ぼっといっばいいれでぇぇぇーーっ!!!」
大量の浣腸液を注入され、臨月を迎えた妊婦のようにパンパンに膨らんだ腹にさせられても、
なおも女は、キチガイのようにケツの穴を開いてねだっていた。
「こいつ、よっぽどケツがイイみてぇだな」
「こりゃ、おもしれぇ、ご要望どおりもっと入れてやるよっと。」
「あふ~~ん、いいぃぃぃーーっ、はっ、はっ」
ひたすら男達の歓心を得ようと、その大きな尻を揺すって媚を売るのだった。
「ぼっ、ぼなかが・・えびごの、ぼなかがやげるぅぅーーっ!ぐぇぇぇーーっ!ぼうダベ、出
るううぅーーーッ!!!」
『ブシャーーッ!!』
とうとう、我慢の限界に達した女は、女陰からは淫汁をポタポタと垂れ流しながら、あたり一
面に汚物を撒き散らして絶頂に達してしまった。

シートが片付けられた後も、散々嬲られ続けた女は、いつのまにか男の上に跨り下から女陰を
突き上げられ、もう一人の男に後ろからアナルを犯されていた。
「びぃぃーーーっ!いいぃぃーーっ!!!」
すると、三人目の男が、つかつかとサンドイッチになっている女のそばに近づき、
「恵美子!いよいよ変態マゾ女恵美子の素顔を、皆さんに思う存分見ていただく時が来たぜっ
!おめぇ、本当はスケベなこの顔を、早く見られたくて堪らないんだろっ!!さあ、遠慮しね
ぇでしかり見てもらえっ!いいなっ!!」
そう言うと、2人の男の間で息も絶え絶えに喘いでいる女から、顔を覆っていたマスクと唾液
まみれになった口枷を取り去った。
それから、男達の動きに合わせてガクガクと揺れる髪の毛をつかむと、グイッと持ち上げるよ
うにして正面を向かせるのだった。

涙と涎と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらも、漆黒の闇の中で嬌楽の世界を彷徨うが如く、白
痴のような陶酔の表情を浮かべた女の素顔が観客に晒された。
その瞬間、私と妻の目が合った。
私は、ここぞとばかりに、一世一代の迫真の演技で、その顔一杯にこれ以上ない驚愕の表情を
浮かべるのだった。
だが、妻はすでに覚悟を決めていたのか、私の顔を見ても一瞬悲しそうな表情を見せただけで、
それ以上は、その呆けたような表情を変える事はなかった。
それどころか、すぐに目をそらすと、そのまま、また凄まじい悦びの渦の中に、自ら進んで飲
み込まれていくのだった。
「さあこれが、スケベな雌豚奴隷、恵美子の素顔です。皆さん!じっくり見て蔑んでやってく
ださい!!」
男は、なおもそう言うと、ヨガリ声を上げながら恍惚の世界を漂っている女の顔を晒しつづけ
た。

「へぇ~っ・・綺麗な女じゃねぇか、あんなに可愛い顔してこんなにド変態なんて、まったく
女はわからないなぁ~」
「顔まで見せて、恥ずかしくないのかしら?それにあのヨガりよう、こうして見ているこっ
ちのほうが顔が赤くなってくるわ・・・・」 
「何でも、ここに来る前は良妻賢母を絵に書いたような女だったらしいが、それもこうなちゃ
もうおしまいだな・・・・」
「でも、あの顔・・本当に気持ちよさそうね・・いやだ、濡れてきちゃった・・・」
そんな声があちこちから聞こえるのだった。

(アァッ・・・もう何もかも終わったわ・・・とうとう一番恐れていた事が・・・あの人にこ
んな姿を見られてしまった・・・いつも上品ぶって、貞淑な女を装っていた恵美子は、実はどうしようもなく淫蕩で、チ○ポなしではいられない変態マゾ女だと
わかってしまったわ・・・)
「ひぃ、ひぃ~~~っ!!お○ン○ンが、中で擦れるぅぅーーーっ!!!」
恵美子の口からは、相変わらず激しい悦びの叫び声が漏れていた。
(ウゥッ・・・もうこれで本当に二度と戻れないのね・・・・・いいわ・・・どうせこんな恥
ずかしい肢体に変えられてしまったのよ、今更戻れるはずなんかないわ・・・そうよ、何を夢
見てたの・・・今の私には、変態公衆便所女として、一生ここで暮らすほうが幸せなの・・・
あなたッ、サヨウナラ・・・・)
それまでも、二人の男達に女を狂わす前後の穴を、優しさのかけらもなく、まるで力任せに犯
されて狂っていた恵美子の様子が、ますます手のつけようもない狂乱の様相へと代わりだした。
(ひぃぃぃーーっ!どうしちゃったのぉぉーーっ!感じるのよぉぉぉーーーっ!!もっと獣に
堕ちた恵美子を見てぇっ!!あぁっ・・・ダメっ・・・もうダメっ!堪らないィィーーーッ
!!!イッ、イクっ、イッちゃうぅぅぅぅぅ~~っ!!!)
その肢体を激しく痙攣させたかと思うと、
「ひぎぃぃぃぃーーーっ!!○ンポいいぃぃーーっ!○ンポいいのぉぉーーーっ!!!」
凄まじい叫び声を上げ、すぐ目の前の男の男性自身に
「○ンポぉーーーっ!!○ンポぼじいぃぃぃーーーっ!!恵美子に○ンポしゃぶらせてぇぇぇ
ーーーっ!!!」
まるで獣のようにむしゃぶりついていった。
[949] Booby Trap 49 投稿者:道化師 投稿日:2003/04/06(Sun) 01:10

それからの恵美子の乱れようは凄まじかった。
それまでは、かすかに、私に知られないうちは、という思いがあったのだろう、しかし、それ
がなくなった今、もう恵美子に失うものは何も残っていなかった。
いや、かえって私に見られ
ながら、変態女として、獣のように嬲られることに、恵美子の被虐の感情は今や極限まで高め
られていた。

「こんな淫乱女には、○ンポよりもっと太い物の方がいいだろ」
恵美子に男根をしゃぶらせ
ていた男は、
「嫌ぁぁーーーっ!もっと、お○ン○ンしゃぶるのぉぉぉーーーーっ!!!」
嫌がる恵美子の口からそれを引き抜き、後ろの男に向かって、アナルを犯したまま恵美子の下
に潜り込んで、その肢体を仰向けにするように言った。
そしてさらに、お○ンコを犯していた男にも、一旦そこから男根を外させた。
「ヤダぁぁーーっ!止めないでぇっ!もっとやってよぉぉーーーーっ!!!」
せっかく享楽の世界を彷徨っていた恵美子は、急に快楽の源を外されて、まるで子供のように
駄々をこねていた。

「おい、足をもっと広げろさせろっ!」
だが、そんな恵美子には一切かまわず、男は下で相変わらずアナルを犯している男に命令する
のだった。
恵美子の、男を求めてバタついている両足が目一杯広げられた。
「よ~し、それじゃあこれでどうだっ!」
すると、その前に回った男は、右手を観客達に見せびらかすように突き出し、そのまま『ズブ
っ、ズブっ』と、恵美子のぽっかりと口をあけている淫歪な淫芯の中に容赦なく差し入れて行
った。
「ぎひぃぃーーっ!きついのぉぉーーーっ!!!」

そのまま男は、右手を前後に激しく動かし始めた。
『ずにゅっ、ずにゅっ』
軋むような音とともに、淫汁を泡立たせた女陰から、白く濁った飛沫が飛び散っているのだっ
た。

恵美子の、まるで際限のない貪欲な淫芯は、周りの驚きを他所に、すぐに男の腕になじみ
始めていた。
『クチュっ、クチュっ』
それとともに、肉の擦れ目から聞こえる音も、滑るようなものに変わって行くのだった。
「がはっ、がはっ、あああああぁぁぁぁっ!!いいいぃぃぃーーーっ!!!」
恵美子の淫芯から流れ出る愛液で、下にいる男の下半身は、ふやけてしまうのではないかと思
われるぐらい、湯気を立て濡れそぼっていた。

「恵美子、前と後ろのどっちがいいんだっ?」
「ひぃぃぃっ!いいのぉぉっ、お○ンコも、お尻も両方いいぃぃぃーーーっ!!!」
ついに妻は、かろうじて残っていた人間の心も、総て無くし完全に壊れてしまった。
「もっとぉぉーーーっ!もっとやってぇぇぇーーーーっ!!恵美子をメチャメチャに壊してぇ
ぇぇぇーーーーっ!!!」
「熱い、熱いの、お○ンコが熱いの、あああぁぁ、堪らない、恵美子のお○ンコが燃えちゃう
よぉぉーーーっ!!!」
「お尻、お尻の穴が感じるぅぅーーっ!ひっ、ひっ、ひっ、ひぃぃっ!!」

『シャーァァァ』
「汚ったねぇ、この女ションベン漏らしやがったぜっ、それにこの涎、もうどうし様もねえなぁ
。」
「かぁっ、ぺっ、お返しにおメェも小便でもかけてやったら、きっと泣いて悦ぶぞっ!」
男たちは、今度は面白がって小便や唾を引っ掛けるのだった。
「うぉぉーーーっ!嬉しいぃぃーーーっ!!ひぃぃぃぃーーーーーっ!!!」
さらに、顔を足で踏みつけられればその足の裏を、尻を押し付けられればその狭間の毛の生え
た尻の穴を、
「はぁぁっ、はぁぁっ」
涎を垂らした口で、さも美味しそうに舐めているのだった。
快楽に狂ってしまった恵美子は、肢体中の穴という穴から男達の放出した液体を溢れさせなが
ら、それでもなお犯されることを望み、目の前の男根をつかんで離さないのだった。
もう、こうなってしまうと、誰にも手のつけようがなかった。

こうして、さんざん、玩具にされていた恵美子だったが、
「こりゃあ、きりがねぇもう、付き合ってらんねぇぜ・・」
「おメェのような、淫乱女の相手はきりがねぇ、人間より牡犬のほうがおにあいだろっ!今度
は、こいつらに気の済むまで可愛がってもらいなっ!!」
ついに、あきれ果てた男達に代わって、今の夫である3匹のドーベルマン達が連れて来られる
のだった。
しかし、その姿を見るなり、恵美子はますます淫芯から淫らな蜜が溢れ出て、ついには、肢体
中が牡を求める牝の本能だけに支配されてしまっていた。

今の恵美子には、周りのことはもはや暗い闇の彼方の出来事になってしまい、どうなろうと一
切関係なくなっていた。
「あぁ~、ご主人様ぁぁ~~・・・変態女の恵美子にオ○ン○ンしゃぶらせてぇ~~っ!!」
ただ、そう叫ぶと、一心不乱に牡犬のペニスにむしゃぶりついていくのだった。
「ご主人様ぁぁ~~っオ○ン○ン美味しいぃ~~っ!!」
そして、ピチャピチャと牡犬のペニスや尻の穴を舐め回しながら、
「オ○ン○ンっ!!オ○ン○ン、牝豚恵美子のオ○ンコとお尻の穴に、早く突っ込んでくださ
いぃぃ~~っ!!!」
そう叫ぶと、口いっぱいに牡犬のペニスをほお張って行った。

『ジュボっ、ジュボっ』
恵美子は、厭らしい音を響かせながら、辺りはばかることなくその肢体中で牡犬達に犯しても
らうことを媚びていた。
犬の○ンポを悦んでしゃぶり、もう1匹のものを扱き、3匹目の牡犬に向かっては媚びるように
尻を振る姿は、もはや人妻の恥じらいも、いや人間としての尊厳をも無くした、ただ一匹の色
に狂った獣そのものだった。

その後、牡犬達によってたかって嬲り者にされ、犬のチ○ポに肢体中の穴を犯された恵美子は、
「オ○ンコぉいいぃぃ~~っ!!!もう、堕ちるぅぅっ!堕ちるよぉぉ~~~っ!!恵美子、
死んじゃうぅぅ~~!!!」
ついに、人間らしい理性を全く無くしてしまい、全身を性器と化して、乳房を揉みしだいたか
と思うと、常軌を逸した表情で、たまらないようにクリトリスのピアスを引っ張りながら悶え
狂っていた。

ショーも終わり近くになると、あまりにも背徳的で淫靡な世界に浸りきった恵美子は、凄まじ
い絶頂感の中で意識は朦朧とし、瞳は焦点を失った様に虚空を見つめ、口とオ○ンコからとめ
どなくあふれ出る涎で床一面に水溜りを作り、狂おしいまでの陶酔の表情を浮かべた顔で
「ぎひぃぃぃ~~~っ!!うぉぉぉぉ~~~っ!!!ひっ・・ひぃっ・・!」
もう、まともな言葉を話せなくなり、まるで酸欠の様にただ口をパクパクさていた。

こうして、あまりの迫力のために、息を詰め、ただただ固唾を飲んで見守る観客の中で、恵美
子と牡犬達の発する獣の喜悦の咆哮と、オスとメスの性器がグチャグチャと擦れる淫らな音が
互いに反響しあっていた。
そして、そんな中に、四つん這いになり、激しくのたうつ恵美子のその胸の下、ゆさゆさと揺
れるふたつの乳房の先で、以前とはまるで比べようのないほど厭らく尖る茶褐色の乳首につけ
られたシルバーのピアスの、カチャカチャと床に当たる音だけが何故かもの悲しげに響いてい
るのだった。

私は、とうとうこの享楽の宴にも最後の時が近づいて来ているのを感じていた。
今日、何度目の絶頂なのか、そんなことさえすでに頭の中から飛んでしまっている恵美子は、
ついに、ヒクっ、ヒクっと肢体を断末魔のように痙攣させたかと思うと、
「もっ、もうだめっ・・・イっ・・・・イクぅぅぅぅぅ~~~~~っ!!!!」
一声、獣のような悦びの叫び声を上げ、女陰を牡犬のペニスで刺し貫かれたまま、床の上にガ
クッと崩れ落ち、そのまま死んだように動かなくなってしまった。

狂乱の時間がようやく終わった・・・・
嵐が過ぎ去った後のけだるさの中でまだ意識が朦朧としている恵美子は、今の夫であるドーベ
ルマン達に、獣の精液まみれになった肢体を舐められながら、白目を剥き、口から泡を吹いて、
「うっぅ~~」
と、ただかすかに呻くだけになっていた。
それは、人間の女として生きることを放棄し、暗い闇の世界で、禁断の悦楽に身も心も呪縛さ
れて過ごすことを決めた、哀れな畜生の牝の姿に他ならなかった。

「あ~あ、こりゃ、完全にイッちまてるな・・・」
「おい、もう、満足か・・・?」
「ひぃ・・・っ、ひぃ・・・・っ・・」
私は、狂おしいまで高揚感で、一言も言葉を発することなくその場にくぎ付けになり、目の前
で、何の反応も見せず、犬のされるがままになっている妻を見つめていた。
だが、下半身は、恥ずかしいほどの興奮のため痺れたように感覚を無くし、下着の中は、快い
開放感の名残で満ち溢れていた。

「そろそろ、次が始まるぞ恵美子。残念だが、彼氏とはしばらくサヨナラだっ!」
「うぅぅ・・・・お○ン○ン、抜いちゃ・・イヤぁぁ・・・」
空ろな目をして力なく呻いている恵美子だったが、そうこうするうちに、牡犬達から引き離さ
れてしまった。
「さあ、恵美子さっさと立つんだっ!」
だが恵美子は、あまりにも激しく、そのうえ数限りない絶頂の代償からか、腰が抜けてしまい、
一人では立てなくなっていたのだ。
仕方なく男達は、ふらつく恵美子の肢体を、二人がかりで両側から支えるようにして立ち上が
らせるのだった。
するとその瞬間、ようやく立ち上がらされた恵美子の股間から、犬達の放った大量の精液が、
ドロドロとその内腿を伝わって床の上にこぼれ落ちていた。

恵美子の肢体はもう疲れ果てているはずなのに、それでもその肉付きのタップリとした腰の辺
りは、まだ牡犬達と睦んでいるかのようにヒクヒクと淫らな動き止めないでいた。
「ねえ・・・恵美子肢体の疼きが止まらないの・・お○ンコ寂しいの・・○ンポ入れて頂戴・
・・」
頭を垂れ、取り乱した髪の毛の間から覗く恵美子の顔は、かつて、家事や子育てにはつらつと
していた頃のものとはまるで人相が変わっていた。
全体の造りや形は相変わらず美しかったが、焦点がまるで合わなくなって空ろに虚空を彷徨う
瞳と、開きっぱなしの口許から涎を糸引かせた様は、何処から見ても色に狂った淫乱熟女その
ものだった。
私は、自分の妻ながら、人間はここまで淫らになれるものだろうかと、改めて恵美子のもって
生まれた業の深さに感動さえ覚えていた。

その時だった、突然、
「さあ、お待たせしました、皆さんお待ちかねのオークションの時間です。」
司会者の男がそう叫び声を上げた。
すると、観客の間から一斉に、
「ウォーっ」
という歓声が上がった。
私は事態がよく飲み込めずに、ただその成り行きを見守っていたのだが、気がつくと、何処か
ら現れたのか、上川がいつのまにか近づいてきていた。
「どうですか、御感想は・・・なかなかあそこまでの変態女はいませんから、ご覧の通り、恵
美子の出演する日は大盛況なんですよ。」
「これは、これは、上川さん・・・そうですね。私も、想像していた以上なんで、びっくりし
ました。それはそうと、この騒ぎはいったいどうしたのです?これからまだ何か始まるのです
か?」
「ご主人にはまだ話していなかったのですが、実は、ここ最近、見ての通り恵美子の人気はう
なぎのぼりでしてね・・・それで、これもお楽しみの一つとして、恵美子に限って、こうして
ショーのある日は、この後、別室で、朝まで玩具にしていたぶり抜く相手を決めるために、特
別に、希望者によるオークションを行うのですよ。」
「そうなんですか・・・」
「こうして、目の前で自分の肢体を競り落とされるのは、いかにも奴隷に堕ちて行く気がして、
それはそれで、また被虐感が高ぶってたまらないようですねぇ~。まったく、奥さんは、どう
しようもない変態女になったもんですよ。」
「・・・・・」
「それに、指名料もこうした方がより吊りあがるので、ビジネスとして我々にとっても、まん
ざら悪い話じゃないんですよ。」
そういって、上川はニヤついているのだった。

こうして、どうやら恵美子はこの後場所を変えて、今晩一晩自由にする権利を競り落とした相
手に、さらにマゾ奴隷娼婦として、朝までタップリ好きなように責め狂わされるのだった。
「それにしても、途中からご主人を意識したせいか、今日の乱れようは、いつもに増して一段
と激しかったですよ。最後なんかは、私が、今まで見た中で、一番の狂いようでしたね。さす
がに、あそこまで凄まじかったのは初めてですよ。まあその分、お客も大喜びのようなんでこ
っちとしては万万歳なんですが・・・」
「本当ですか・・・・私も、始めて実際にこの目で見て、あの妻がここまでと思うと、もう感
無量で声も出せませんでした。」
「そりゃよかった。でも、さっきも言ったように、恵美子の方はこれでお終いじゃなく、これ
からもお楽しみが続くんですがね・・アイツにしてみれば、いつもの牡犬もいいみたいなんで
すが、やっぱり、人間の男も捨てがたいらしくて、この時ばかりは久しぶりに朝までたっぷり
嬲り狂わせて貰えるんで、今頃はもう待ちきれなくて、ほら、きっとまたお○ンコが疼いて堪
らないんですよ。」
そう言われて恵美子を見ると、その動きは、確かに先ほどのものよりいっそう大胆になってい
るのだった。

「なるほど、本当に恥知らずな底なしの超淫乱女になったようですね・・・とにかく、よくぞ
あそこまで完璧に仕上げていただきました、何とお礼を言ってよいのやら・・・この上は、1
日も早く私の家で妻を飼って、この手で思う存分責めてやりたいのです。どうか妻を帰してい
ただく件よろしくお願いいたします。」
「まあ、そう慌てて貰ってもねぇ・・・とにかくその話は日を改めてという事で・・」
「分かりました・・・でも、くれぐれもお願いします。」

私たちが話しているうちに、結局、その日は中年の脂ぎった、いかにも好色そうな男達が3人
共同で落札したのだった。
きっと、恵美子は、この後あの3人の男達にとことん弄ばれるのだろう。
両肩を支えられて、引きずられる様に店の奥へと連れて行かれる恵美子の姿が見えなくなると、
その男達は、舌なめずりしながらいかにも嬉しそうに奥の特別室へと入って行くのだった。

私は、その禁断の悦びで熱く燃え盛る肢体を3人の男達に好き勝手に弄ばれ、そして、ついに
は止めどなく湧き上がるマゾ女の悦楽に打ち震え、穴という穴から男達の欲望の証を溢れさせ
た恵美子が、ひたすら悶え続ける姿を思い浮かべながら、一人、礼を言って店を後にするのだ
った。

帰る途中、私はいつのまにか今日の計画の事もすっかり忘れ、際限のない陶酔感に浸りきって
いた。
そして、それは、その日家に帰ってからも消えることなく、私は、身体の奥からこみ上げてく
る感情を抑えることができず、もう何も考えないでただひたすら欲望の赴くままに身を任せる
だけになっていた。
こんな事は、性に興味を持ち始めた思春期以来、いったい何十年ぶりだろう・・・・・
私は、先ほどまで、ショーを見ながらあんなに恥ずかしいほど下着を汚したのにもかかわらず、
あの3人の男達に、女の3つの穴を同時に犯される妻を想像しながら、いつ果てるともなく、
何度も何度も狂ったように高ぶりを放出し続けたのだった。
[952] Booby Trap 50 投稿者:道化師 投稿日:2003/04/12(Sat) 01:52

 それからしばらくの間というもの、私は全く落ち着かなかった。
それは、あの日私の企んだ計画が、果たして思うような成果を上げたのか、それとも結局失敗
に終わってしまったのか、その結果がわからなかったためだった。
そんな、イライラするような焦燥感で、身も心も押しつぶされてしまいそうな毎日を過ごして
いた私に、待ちに待った上川からの連絡があったのは、ピリピリと張り詰めた神経が限界へと
近づいていた頃のことだった。

あれ以来、彼らから何の反応もない事に途方にくれていた私は、再び、のこのことあの店に行
く勇気もなく、かといって、こちらから連絡をすればその時点で総てが終わってしまうような
気がしてそれも出来ず、ただ、日に日に妻を失いたくない気持ちだけがどんどん膨らんでいた。
だが、そんな思いも総て上川からのたった一本の電話で吹き飛んでしまったのだった。
「お久しぶりです、先日、店にお越しいただいた日以来になりますか・・・」
「珍しいですね、上川さんから連絡していらっしゃるなんて・・・それで、急にどうしたので
すか?」
私は、はやる心を押し殺して、わざととぼけた振りをした。
「いや何、ちょっとご相談
したい事がありまして・・・それで、一度こちらまでご足労いただけないかと思いましてね・
・・」
「それは、いいですが・・・いったい何の相談ですか・・・・?」
「まあ、電話では何なんで、そのとき詳しく話しますよ・・」
「分かりました。それでは、明後日の午後うかがいます。」
「いいでしょう、それじゃああさっての午後ということで・・・」
「承知しました。」
私は、あくまでも普通を装い、最後まで何も分からないような口調で受話器を置いた。
だが、すぐに、今の会話を頭の中で何度も繰り返しながら、
(上川のあの口ぶりからすると、たぶん、例の計画がうまくいったのでは・・・)
と、密かにその日が来るのを楽しみに待っていたのだった。

そして約束の日、午後になって、私が言われた通りに事務所に着くと、すでに上川は奥でソフ
ァーに腰をおろして待っていた。
その顔を見たとき、私は、ここからが妻を取り戻すための本当の試練なのだ、これを乗り越え
なければ、妻は二度と私のもとに戻ってくる事は無いだろうと、身が引き締まる思いがした。
とにかく、妻を取り戻すまでは絶対にここから帰らないという思いで、思わず武者震いがする
のだった。

上川の前に通された私は、まるで対決するかのように向かい合わせに座った。
「よくいらっしゃいました。今日来ていただいたのは、この間もお話しましたように、折り入
ってご相談したいことがあったからです。」
「どのようなお話でしょうか?」
必死に平静を装いながら、そう尋ねた。
「それは・・・以前より頼まれていた、奥様の今後の事についてなんですが・・・」
「そ、それでは妻を自由にしていただけるのですか?」
私は、だんだん冷静さを失っていく自分に気づいていた。
「まあまあ、そう慌てないで下さい。」
「でも、私はあれ以来、1日1日待ち遠しくて堪らないのです。」
何とか落ち着こうとするのだが、言葉が勝手に先走っていくのだった。

「そうですか・・・それはともかく、あなたには、まんまとしてやられましたよ。あの日、恵
美子のショーが見たいといったのは、こうなる事が分かっていたからなんですね。」
「な、何のことです・・・」
私は、わざととぼけてそう応えたが、その瞬間、言葉が震えているのが分かった。
しかし、それと同時に、私の考えに間違いのなかった事を、目の前にいる上川の表情から、は
っきりと確信したのだった。
「あくまでも、何も知らないと言われるのですね・・・・」
上川は、そう言うと、口をつぐみ、鋭い眼差しでじっと私の目を見つめているのだった。
私は、ここで少しでも慌てた素振りを見せたら負けだ思い、とにかく微動だもせずに、ただ黙
って上川と対峙していた。

「まあいいでしょう・・・」
しばらく張り詰めた沈黙が続いたが、その重苦しい空気を破るように、上川がやっと重い口を開いた。
「貴方の熱意には負けましたよ・・・・その思いに免じて、今回はこちらが折れましょう・・」
「と、言いますと・・・・妻を・・・」
「そうですよ、そちらにお返ししますよ・・・我々も充分美味しい思いをさせていただきまし
たから、これ以上もう野暮な事は言いませんが・・・さて、余談はこれぐらいにして、それで
は、本題に入りましょうか、奥さんをお返しするに当たって、我々も商売なんでそれなりのも
のをご用意いただきたいのですが・・・」
「それなりのものといいますと?それは、お金ですか・・・」
「詳しく言わなくても分かるでしょう・・・」
「そうですか・・・」
私は、その時一か八かの掛けに勝った事を悟った。

それから私達は、具体的な話をしたのだが、恵美子を引き渡してもらうための条件(被害届を
出さない等)はともかく、金を支払う事には少し抵抗があった。
それまでの恵美子の稼ぎを考えれば、とっくに借金が精算できているはずだと思っていた私は、
この上さらに金を払うことに少なからずも不満があったのだ。
だが、話すうちに、これ以上彼らの譲歩を引き出すのは不可能だろうと思い、結局は彼らの言
う金額を支払う事に同意した。
私にとっては痛い出費だったが、最後には、それで恵美子を取り戻せるならと、しぶしぶなが
ら承諾したのだった。
だから、上川達にとって、この取引は充分美味しいものになったに違いなかったのだろう、
「それでは、これでお互いもう文句はありませんね。」
そう言うと、最初の苦虫を噛み潰したようなしかめ面とは打って変わって、さも満足そうにニ
ヤッと笑うのだった。

こうして、なかなか折り合いがつかずに、大変なものになるだろうと思われた恵美子を取り戻
す交渉は、最後はあっけないぐらい和気あいあいのうちに成立したのだった。
私は、無我夢中で家に帰ると、やっと念願がかない、再び妻を自分の手に取り戻す事が出来た
喜びで天にも上る思いだった。

それからの私の生活は、とても充実したものになっていった。
先ず私は、通勤には不便になるが、近所の事、上川達の事、色々な事を考え、それまでのマン
ションを引き払い、そこからかなり田舎の方に離れ、もう少しこじんまりして、その上、防音
設備のしっかりとした新しいマンションへ引っ越した。
そして、そこで誰気兼ねなく、妻と2人きりの淫蕩な生活を楽しむようになっていた。

私は、毎日、何処にも寄らず、仕事もそこそこにまっすぐ家に帰ると、すぐに妻の待つ部屋に
向かうのだった。
妻は、常に素っ裸で、鼻輪を鎖で柱につながれ、四六時中発情しっぱなしのために、一日中い
ろいろなバイブでオナニーをしながら、私の帰りを待っていた。
中に入ると、そこには、清楚で理知的だったかつての面影はなく、色に狂い知性のかけらもな
い痴的な悦楽の表情を浮かべ、ただ肉体の快楽のみを求め悶える、色地獄に堕ちた淫乱な牝豚
と化した妻がいた。
部屋中に充満した己の淫臭の中、涎と、愛液と、排泄物でベトベトになった床の上で、巨大な
バイブを、口、女陰、アナルの3箇所に頬張り、片手で、乳首とクリトリスのピアスに繋がれた
鎖を引っ張り、もう一方の手の指で、白濁した汁で溢れた、淫芯とアナルの中のバイブを激し
く掻き回しながら、狂ったように涎をたらしてのた打ち回り、
「こんなのじゃダメェ~~!チ○ポっ!チ○ポ欲しいぃっ~~!!誰か、恵美子のオ○ンコと
お尻の穴にチ○ポ突っ込んでえぇぇっ~~!!!」
と、涙を流しながら叫んでいるのだった。

そう・・・私の計画とは、まるで薄氷の上を渡るような危うい緊張の中で、かろうじてバラン
スを保っている恵美子の精神に、決定的なとどめの一撃を与える事だった。
そのためには、恵美子が、変態色情狂へと変わり果てた今のその恥ずかしい姿・・・自ら進ん
で色地獄に堕ちて行き、ついには、享楽に狂った一匹の牝として、なりふりかまわずのた打ち
回る姿を、この世で一番見られたくなかった私に晒させる事が絶対に必要だと考えたのだ。

上川との最後の電話以来、いったい、どうしたら恵美子を取り戻す事が出来るのかを思い悩ん
でいた私の頭の中に、ある日、ふと、
(いっそのこと、恵美子が完全に狂ってしまえば、上川も恵美子のことをあきらめるのではな
いか・・・・)
という考えが浮かんできた。
しかし、テープに映る恵美子の様子やそれまでの上川の話の内容から判断すると、どんな相手
であれ、一旦嬲られ始めればまるで狂ったような反応は示すが、それも、肢体の疼きに支配さ
れた結果であって、どんなときも自分を無くしてしまうような、その精神までもが完全に変調
をきたしているわけではなかった。

(いかにその本性が最高の淫乱性を持っているとしても、普通なら精神が病んでしまうだろう
と思われるあのような絶望的な状況で、人間の女としては最低の暮らしを送る中、どうして恵
美子は、今まで曲がりなりにも正気を保っている事が出来るのだろうか・・・?)
こうして、私の中に湧きあがった疑問は、日が経つに連れ、暗い影のようにじわじわとその心
を蝕んでいった。

(どうしたら、恵美子の精神を壊せるのだろうか・・・・・それにはまず、何が恵美子の崩壊
を踏み止まらせているのかを知らなければ・・・・・)
私は、必死だった。
仕事中だろうが何だろうが、とにかく寝ても覚めても、寸暇を惜しんでその理由を知ろうとも
がき苦しんでいた。
そして、ついにある一つの答えに行き当たったのだった。

それは・・・ひょっとしたら恵美子は、一度は何もかも捨てる決心をしたものの、やはり心の
どこかで、いつかは全ての返済が終わって、家族のもとに戻れる時が来ると信じているのでは
ないかという事だった。

妻は、いわゆる、自分には甘く他人には厳しいというタイプの人間だった。
人間、誰しも多少そう言うところがあるが、恵美子の場合はかなりそれがひどく(まあ、その
性格も今回の一因になったようなものだが)私も少しもてあまし気味だった。
それゆえ、何かにつけ、自分の都合のいいように考える事が多かった。
だから、きっと普通に考えれば言い訳できるはずもない肢体に施された様々な改造さえ、何と
かごまかしとおせるだろうと思っていても不思議はなかった。
あの時の上川達の話から考えると、恵美子は、相変わらず私が男達とグルだと言う事に気づい
ていないようだった。
それどころか、この期に及んでもまだ、天使の仮面の下にその歪んだ本心を隠した、まるで地
獄の入り口で無垢な人々を誘い惑わす、邪悪な道化師のような私の事を信じきっているようだ
った。

そんな恵美子だったので、未だに私が、何かの弾みで恵美子がここにいる事を知ったなら、き
っと、何とかして家族のもとに連れ戻そうとするだろうと考えているに違いなかった。
また、誠実な男を装っていた私のことを、これっぽっちも疑う事を知らない哀れな恵美子は、
夫がこのような悪趣味なショーを楽しみに来るなどとは、夢にも思っていない事も間違いなか
った。
そして、当然のことながら、私が恵美子の今の居場所を突き止めたような気配も、ショーを見
物に現れたことも、どちらも全く恵美子には思い当たるはずはなかった。
だから、その事は逆に、恵美子には自分の本性がまだ夫に知られていないと信じ込ませていた
だろうと容易に想像がついた。
私は、心ならずも夫を裏切ってしまったと言う罪悪感に苛まれていた恵美子が、それでも、私
にだけはまだ事実を知られていないと信じる事で、かろうじてその心が砕け散ってしまうのを
防いでいるのだろうと考えたのだ。

このまま返済が完了するまで私にさえ真実を知られなければ・・・そうすれば、無理やり働かされて、心ならずも男達の言いなりになっていた事にして、決して
自分から望んだわけではないと言いつくろえる・・・・善良で優しい夫を装っていた私しか知
らない恵美子は、そう言って許しを請えばきっと再び受け入れてもらえるに違いない、と・・
・あまりにも甘い考えだが、そんなかすかな希望だけが、今の恵美子の最後の支えになってい
るとしたら・・・・・・
何の前触れもなく、突然みんなの前から姿を消した妻だけど、その時が来れば必ず家族は許し
てくれる。
さすがに、自ら淫の化身となって、タブーなどまるでない底なしの悦楽を求め狂うという、常
人には目を覆いたくなってしまうだろうここでの淫靡なステージを目の当たりに見られたなら
・・・・その時は、いくら人の良い夫でも愛想をつかされるだろうが、そうでなければ何とか
ごまかせる・・・・

気持ちさえ切らないでいれば、いつかまたもとの生活に戻る事が出来るという、唯一かすかに
残った一縷の望みが、ギリギリのところで恵美子の精神を支えているのではないか・・・と思
い当たったのだ。
恵美子の性格から考えると間違いない・・・・
その思いは、日に日に私の頭の中で波紋のように広がって行き、いつしか絶対に間違いないと
言う確信に変わっていった。

だったら、後は簡単ではないか・・・
その賭けにも似た思いが、完全に望を絶たれたと恵美子に認識させる事が出来たなら、その時
こそ、恵美子を完全に壊せるだろうと・・・・
そのためには、この世の中で絶対に知られたくない私に、その本性が知られてさえしまえば・
・・・そうすれば、わずかに残っていた最後の心の支えを失い、必然的に、恵美子の精神は崩
壊へのプロセスをたどるに違いない・・・・と考えたのだった。

つまり、簡単に言えば、恵美子がすがっていると思われる、かすかな希望へと続く蜘蛛の糸よ
りも細く張り詰めた糸を、完膚なきまでに絶ち切ってしまう事が出来れば、その強烈な精神へ
のダメージによって、きっとその心までも完膚なきまでに破壊されてしまうだろうと・・・・
そうすれば、もはや恵美子は、人間としての自尊心も総て無くしてしまい、完全に思考力を崩
壊させられてしまった、ただの色キチガイになってしまうに違いないと考えたのだ。
そうなれば、必ずその扱いに手を焼いた上川が、きっと、何かの形で私に連絡してくるだろう、
その時、条件さえ合えば絶対に妻は取り戻せる・・・・
私は、一見、暴挙のように見える方法の、その僅かな可能性にかけることにしたのだ。

痴呆症のように薄ら笑いを浮かべ、性欲だけに支配される色キチガイに堕とされた妻の姿を想
像すると、いくらなんでもそこまでは・・・・そう考えもしたが、もうそうまでしないと、と
ても普通の状態のままでは、妻を取り戻す事は出来ないだろうと考えるまでに、そのときの私
は追い詰められていたのだった。

恵美子の精神を完全に破壊してしまう・・・・そのあまりの代償の大きさに散々悩んだ私だっ
たが、最終的に、妻を取り戻すためにはそれしかないと心を決めると、かえって、その悪魔の
ような計画に全てを掛ける事が新たな生き甲斐になって行ったのだった。
まず、上川達にいかに疑われないように恵美子のショーを見学する事が、総てを可能にする第
一歩だった・・・・・

そして・・・私の計画はまんまと成功したのだ。
思ったとおり、恵美子の傷ついた精神は、狂気という漆黒の闇の底に深く深く沈みこんで行っ
た。
そして、とうとう精神に異常をきたし、身も心もボロボロに壊れてしまった恵美子は、常に誰
かに犯されて、悶え狂っていないと満足しないようになってしまった。
その結果、檻の中はもちろん、お客といるときでさえ際限なく男を求め、わけのわからないこ
とを言いながら暴れ回ったり、大好物の○ンポを咥えながら薄気味悪い笑みを浮かべるように
なっていたのだった。

常にへらへらと笑いながら、まるで締まりのなくなった二つの穴からはクソも小便も垂れ流し
放題で、異様な匂いの中、それでも一緒に暮らしている犬のペニスを美味しそうにしゃぶり続
けていた。
お○ンコを狂ったようにかきまわしながら、涎を垂らした口で○ンボをしゃぶり回し、牝の本
能だけに支配され、ただひたすらに肉体の快楽を求める、色キ○ガイの変態牝豚に成り果てた
恵美子の姿は、とてもこの世のものとは思えない凄惨さだった。
そうなると、さすがにお客も気味悪がって敬遠し始めるようになって行った。

私が思ったとおり、客達は、あくまでも正気の女が、変態的な責めを受けて最後にはキチガイ
のように我を忘れて悶え狂う様がいいのだ。
一見、何処にでもいるような、普通の主婦に見える女がみせる狂態がウケるのであって、やは
り精神的に壊れてしまっていては、最初から正体をなくして狂ってしまい、まるで面白みに欠
けるのだろう、すぐに客達は見向きもしなくなっていたようだ。
そして、そうなると、今度は逆に、そんな恵美子をもてあました上川が、まあ、そんなになっ
てしまった恵美子では、きっと、金になるのは私ぐらいしかいないだろうと連絡してきたとい
うわけだったのだ。

こうして、私は一か八かの賭けに勝って、変わり果てた姿になってしまった妻だったが、とに
もかくにも取り戻す事が出来たのだった。

これで総て終わった・・・そう感じていた私だったが、この後、思いがけない結末が待ってい
ようとは・・・・この時の私は知る由もなかった・・・・
[954] Booby Trap 最終回 投稿者:道化師 投稿日:2003/04/12(Sat) 23:56

毎日、恵美子は帰ってきた私を見るなり、白痴のような悦びの表情を浮かべ、待ってましたと
言わんばかりに私の男性自身にむしゃぶりついてきて、両手で自分のオ○ンコを掻き毟りなが
ら、『ダラダラ』と涎を垂れ流し、狂ったようになめまわすのだった。
「○ンポぉぉ~~・・あぁっ~・・・○ンポ美味しいぃぃ~~!!早くうぅぅ~~!早く大き
くなってぇぇっ~!!オ○ンコが疼くぅぅ~~っ!!!もう我慢できないのォォ~~!!!恵
美子、○ンポ欲しい、○ンポ入れてよぉ~~~っ!!!」
私はたまらず、何度も何度も妻の口、オ○ンコ、アナルを犯してやった。
浣腸、フィスト、スカトロ・・・妻は、どんなに変態的なプレイでも悦んで受け入れた。いや、
むしろ、変態的であればあるほど、悦びのボルテージは上がっていくのだった。
そして、その度に、完全に色情狂になった妻が目の前で喘いでいるのを見て、なんともいえな
い満足感に浸っていた。
当初の予定通りとは行かないまでも、私は、充分満足していた。
何の干渉もなく二人きりで過ごす暮らしは、常に妻とのプレイを、誰にも邪魔される事なく、
思う存分楽しませてくれていたのだった。

そんな倒錯した日々を送っていた私達に、ある日、突然の転機が訪れた。
驚いた事に、ずっと変わらないと思っていた妻が、まるで永い眠りから覚めるように、急に正
気を取り戻したのだ。
私は、妻が戻ってきたとき、その様子から、もはやその精神は完全に壊れてしまっていて、こ
のままずっと、自分が何者なのかさえもわからないまま、牝の快楽を求める性欲のみに支配さ
れて生き続けるものだと思っていた。
私には、一生涯、何もわからなくなった妻を満足させるため、ただひたすら責め狂わす事以外
にはもう何も出来ないのだとあきらめていたのだ。

だが、それは大きな間違いだった。
どうやら、あの時、確かに恵美子は大変なショックをうけたようだったが、それでも、私が考
えたように、精神が完全に破壊されてしまったわけではなかったのだ。
恵美子の精神は、私が想像していたよりもずっとタフにできていたのだった。

あの日、恵美子は極度に興奮したため、ただ一時的に、精神が錯乱状態になっていただけだっ
たようだ。
ただ、あのまま上川のところにいたとしたら、そのままショックから立ち直れずに、一生、色
に狂ったままで、二度と正気に戻らなかったかもしれなかったかも知れない。
だが、幸いにも私のところに戻った事により、自然と心の落ち着きが得られるようになってい
たのだ。

とにかく、私が、全てをさらけ出してしまった恵美子を許し、そして、あるがままに受け入れ
ることにより、恵美子は、いつしか心のどこかで、嬲り狂わせてくれている相手が捨てられた
はずの夫なのだと意識するようになっていたようだ。
そして、そのことが恵美子に精神の安定をもたらして、その結果、徐々に心の平穏を取り戻し
つつあった恵美子は、ついにはその正気を取り戻すに至ったのだった。

ただし、これは、あくまで素人である私が何の根拠もなく考えた事なので、何故、恵美子が急
に自分を取り戻すようになったのか、本当のところはよく分からないのだが・・・
一つだけいえるのは、私のもとに戻ってきた時の恵美子の様子は、私のみならず、上川達でさ
えも見誤らせる程、誰が見ても完全に壊れてしまっていて、二度と正気に戻るようには見えな
かったということだった。
そして、そんなギリギリにところまで恵美子を追い込んだ事が、結果として、皮肉にも、今の
私たちの、満ち足りた生活をもたらしているということだった。

妻を取り戻して1ヶ月ほどたったある日の事だった。
その日も、いつものように仕事から帰ると、待ちかねたように私の男根にむしゃぶりついてき
た妻を、散々弄んでひとまず満足した私は、何度も絶頂に達し、まるで断末魔のように痙攣し
ている妻を残して、喉の渇きを潤そうとキッチンへ向かった。

ビールを飲みながら少し間休憩した私が、再び妻のもとに戻って来た時それは起こった。
その時、恵美子はそれまでの狂態がまるで嘘のように、急に私のことをしっかりと認識して、
まだ快楽の余韻の残る肢体を『ビク、ビク』と震わせながら、
「あぁ・・っ、ここは、いったい・・・・?あっ、あなた・・・なの・・・?あなたなのね・
・・・うぅぅ・・・っ」
突然そう言うと、永い眠りから覚めたかのごとく、ハラハラと瞳から大粒の涙をこぼして始め
るのだった。
その瞬間、私は、ビックリして言葉もなく、ただ黙っているだけだったが、さらに恵美子が、
「あなた・・・ごめんなさい・・・恵美子、とんでもない女になってしまったの・・許して・・
こんな肢体になってしまった恵美子を、どうか、許して・・・・」
と言うので、私は、驚きながらもとにかく、
「いっ、いいんだよ、もう何も心配しなくても・・・」
やっとの思いでそう言うのが精一杯だった。
だが恵美子は、私のその言葉を聞いて、ひとまず安心したようで、
「こ・・こんなどうしようもない女を、許してくれるの・・・嬉しい・・うぅ・・・」
と、嗚咽を漏らしていた。

それから、少し落ち着きを取り戻した私が、まだ、私に対する引け目からか、うつむいたまま、
ただ、
「本当に、ごめんなさい・・私が、バカだったの・・・」
と、呟いている恵美子に、その身に何が起こったのか全てを知った上で、私が上川と話をつけ
て、恵美子を取り戻した事などを話してやった。
そして、恵美子に、今までの事は全部許してやるからと伝えると、相変わらず何も知らない恵
美子は、涙を流し続けながら礼を言うのだった。
私は、夫を信じきっている恵美子の涙を見たときさすがに心が痛んだが、それでもお人よしの
仮面の下にドス黒い悪魔の顔を隠して、あくまで何も知らない善良な夫を装いつづける事にしたのだ。

しかし、精神は戻っても肢体に覚えこまされた性癖は別なようだった。
「あなたっ、お願い・・バカな恵美子にいっぱいお仕置きをしてください・・・・」
すぐに、憂いをたたえた、男をとろけさすような色っぽい声でそう訴えるのだ。
私がそれに応えて容赦なくいたぶってやると、逆に最愛の夫に責められる事が、恵美子の被虐
の感情を凄まじく高ぶらせているようだった。
恵美子はもう己の肢体が欲求するままに、とことん悶え狂ったとしても何の心配もなく、誰に
対してでも、いっさい何の気兼ねもいらないと感じていたのだ。

「お前は、なんて淫乱な女だったんだ。男達に散々嬲られて、まるで色キチガイのように悶え
狂って・・・・それに、この肢体中に彫られた刺青と、あちこちに付けられたピアスはいった
い何だっ!こんな肢体にされて嬉しいなんて・・今まで貞淑な女の振りをして、よくも私を欺
いていたな、この変態マゾ女がっ!!」
「あぁ・・・あなたぁぁっ!今までだましてて、ごめんなさいぃぃっ!恵美子、本当は、変態
マゾ女だったのぉっ!!こんな肢体にされて、皆に蔑まれるのが、とっても嬉しくて、たまら
ないのぉっ!!どうか、牝豚奴隷に堕ちた恵美子を、もっといたぶってぇぇーーーっ!!!」
「よぉ~し、こおしてやるぅぅっ!!そうだ、お前、ケツの穴でも男を咥え込んでいたなっ!
こんなとこでも感じるなんて・・・思い出したぞ、犬にまで犯されてよがり狂っていたじゃな
いか、この節操のない変態雌豚がっ!!」」
そう言って、私が思いっきり責めると、
「そうよぉぉーーっ!恵美子は、どうしようもない淫乱女なのよぉぉぉーーーっ!!もっと罵
って頂戴ぃぃぃーーーッ!メチャメチャに、狂わせてぇぇぇーーーッ!!!」
白目を剥いて、開きっぱなしの口許からは、後から後から糸を引く涎を垂らし、禁断の快楽に
身を震わせながら、洪水のように、白濁した淫ら汁で濡れそぼる淫芯を、狂ったように掻き回
していた。
そのまま、左右の乳房を揺らしながら、誘うように淫芯を開いて、艶かしく腰をうねらせる様
は、とても、卑猥な美しさがあった。

そして恵美子は、私に、妻ではなく、奴隷として、ここで一生飼われる事を悦んで受け入れ、
改めてどんないいつけにも従う事を誓ったのだった。
とにかく、恵美子の心が戻る事を、完全にあきらめていた私にとって、この事は本当に嬉しい
誤算とも言うべき出来事だった。

それから1ヶ月・・・
恵美子は、相変わらず、私に責められ、まるで発作が起こったように手のつけようのない色情
狂になって、凄まじいばかりの狂態を晒していた。
常に、肢体は燃えるように火照っているので、何かの弾みで一旦淫乱モードのスイッチが入る
と、とにかく誰でもいいから男に犯される事を望んで、狂ったように女陰やアナルの中に手を
突っ込んで掻き回し、淫らに肢体をくねらせながら、涎をたらした口から喚き声を上げつづけ
るのだった。

私にとって喜ばしいことに、上川達によって、完全な色情狂に作り変えられてしまった恵美子
の肢体は、当然、その精神には関係なく何も変ることはなかった。
肢体中に入れられた入れ墨やピアス、巨大にされた上、驚くほど敏感に改造された乳首やクリ
トリス、幼女のようにつるつるになって、厭らしい女の割れ目をくっきりと見せる下腹部、さ
らにアナルSEXのし過ぎで、爛れたように醜く盛り上がる肛門など、恵美子は、もう一生消
える事のないマゾ女の証を肢体中に刻み込まれていた。

恵美子はそんな肢体になってしまっていたので、たとえ心は正気に戻っても、絶え間なく襲っ
てくる肢体の疼きによって、頭の中は一日中淫らな願望で一杯になり、その女陰は、常に男を
求めて濡れそぼっていた。
(だから、本当の意味での正気ではないのかもしれないが、少なくとも、自分や夫を認識でき
るようになったという意味においては、精神が回復していたといってよかった。)

現在も、家の中にいるとき恵美子は、私の許しがなければ、マゾ奴隷の証としてつけられたピ
アス以外は、一切何も身に着けることを許されていない。
したがって、私が仕事に出かけている間は、毎日素っ裸のまま鼻輪を鎖に繋がれて、その厭ら
しく改造された肢体を晒して過ごしているのだ。
まあ、あんなに敏感に改造された肢体では、衣服が触れるたびに性感帯が刺激され、とても長
い事着ていることが出来なくなっていたし、それに第一、その下半身は両方の穴ともだらしな
く緩みきってしまっていたので、間違っても何かを身に着けられるような状態ではなかったの
で、恵美子にはその方が良かったのかもしれない。

だが、それでも、一旦覚えこまされた肢体の疼きは耐えがたいらしく、一日中自分で自分を慰
めて過ごしている。
だから、私が帰ってくる頃には、もう自分ではどうしようもないほど高ぶっていて、
「あぁ・・ご主人さまぁ・・・お帰りなさい・・・・お願いです、恵美子はもう我慢できませ
んっ!は・・はやく、お○ン○ンを下さいっ!」
「また自分で楽しんでいたのか、お前は、どうしようもない淫乱女だな」
「ごめんなさい・・・でも恵美子、もう自分でもどうにもならないくらい、お○ンコしたくて
しょうがないの・・・イッても、イッてもすぐにまたお○ンコしたくなっちゃう・・・恵美子
・・どうしようもない変態の淫乱女になっちゃったの・・ほら、今ももうこんなに・・・はぁ
・・」
そう言って、床の上に横になると、厭らしく舌舐めずりしながら、片手で乳房を揉みしだき、
股を思いっきり開いた腰を上げ、もう片方の手でクリトリスのピアスを摩りながら、私に見せ
つけるように、ゆっくりとグラインドさせるのだった。
そして、その厭らしくうねる股間をよく見ると、そのグッショリ濡れそぼった女陰からは、白
濁した液体が糸をひいて滴り落ちて、床の上に白く濁った水溜りを作っていた。

こうして、蔑まれれば、蔑まれるほど、恵美子は肢体全体をのた打ち回らせ、禁断の悦びに打
ち震えていた。
とにかく、恵美子は完璧な淫乱症に改造されていて、24時間くすぶり続けているその肢体に
一度でも火がつくと、あっという間に極限まで燃え上がってしまって、手がつけられないほど
凄まじい嬌態を晒すのだ。

私は、恵美子の事を、好きなように弄んだ。
そのたびに恵美子は、
「あぁ・・ご主人様・・・どうか、こんなになった恵美子を捨てないで下さい・・・いつまで
も奴隷女として、ここで飼ってください・・・お願いします・・」
そう言って、マゾ女特有の、背筋がゾクゾクするするほど艶っぽい目で私を見つめて哀願する
のだった。

一度、私が仕事に出かけている間中、試しに、恵美子を身動きできないように縛り付け、乳首、
お○ンコ、アナルに、途中で止まらないよう、コンセントから電源を取れるように改造したバ
イブレーターを、それぞれに外れないようしっかりと取り付け、そのまま外って置いたときな
どは、仕事が終わり、どうなっているのか楽しみに家に帰ってみると、恵美子は案の定、バイ
ブの音だけが厭らしく響く部屋の中で、あたりの床一面を、涎と愛液、それに何度も絶頂に達
して、完全に締まりの無くなったお○ンコとケツの穴から、大量に垂れ流したクソと小便でビ
ショビショにして、白目を剥いて、口から泡を吹き、
「ううぅぅぅ・・・・・・・」
かすかに呻き声を上げながら、肢体をヒクヒクと痙攣させて失神しているのだった。
ただ、それでも男を求めて悶え狂う下半身は、そこだけ意思を持った別の生き物のように、恵
美子の意識とはまるで関係なく勝手にクネクネと、その淫らな動きを決して止めることはなか
った。

また、最近は、たまに外へ連れ出すこともしている。
ただ、いくらこの辺が田舎だと言っても、さすがに家の近所は、まだ深夜遅くなってからぐら
いしか連れまわせないが、それでも外に出て暗い路地裏で素っ裸にすると、
「はぁ~っ、恵美子のスケベな肢体、見られちゃうぅぅぅ・・・うっ、うっ、たまらないわ・
・・・っ」
それだけで、目覚めてしまった露出狂の血が騒ぐのか、肢体の震えが止まらなくなって、とて
も立っていられないようだ。
近いうちに、一度、日中にどこか遠く離れた場所にでも連れて行って、思いっきり露出プレイ
でいたぶってやろうと思うのだが、今のところはまだそんな暇がないのが残念だ。

それと、ただ一点気になるのは、このあたりは、田舎のせいか庭が広く、その広い庭で犬を飼
っている家が多い事だった。
獣と行う倒錯した禁断の行為の、いつ果てるともない麻薬のような享楽の味を覚えてしまって
いる恵美子の目には、それはとても魅力的に映っているに違いなかった。

気のせいか、そう思うと恵美子の大型犬を見る目つきが、妙に色っぽく思えてしかたがないの
だった。
きっと、口には出さないが、そのそわそわした素振りから、
(あぁ・・・あの、犬のお○ン○ンが、恵美子のお○ンコの中一杯で、ぐぐっと膨れるあの感
じ・・・・思い出すだけで、お汁が止まらない・・・・いっ、入れられたい・・・)
そう考えているに違いなかった。

幸い、年寄りだけですんでいる家も多く、そんな家は朝が早い代わりに、真夜中はきっとぐっ
すり寝入ってしまい、多少の物音ぐらいでは起きないだろうから、恵美子の新しいボーイフレ
ンドができるのも、もうすぐの事だろう。
いや、淫乱症の恵美子のことだ、そのうちに、夜な夜な、近くの牡犬達を集めて、乱交パーテ
ィーを始めるかもしれない。

私は、そうなっても全くかまいはしない。
それどころか、最近は、四つん這いになって、何匹もの牡犬達に囲まれて、肢体中を舐めまわ
され、狂ったようにのたうち回り、目の前にいる犬のペニスを
「あぁ・・・犬の、お○ン○ン美味しい~~、先っちょから、ダラダラお汁が出てくるの、も
っと出して~~っ、ザーメンも頂戴よぉぉ~~っ!」
と、涎を垂らしてしゃぶりながら、さらに後ろからは、大きな犬にのしかかられて、その巨大
なペニスに、厭らしく改造され、悦びの淫ら汁を溢れさせた女陰を刺し貫かれ、
「ひぃ~・・・・っ、いいよぉぉぉ~~~っっ!!恵美子、犬の、お○ン○ンで狂っちゃうっ
!!もうダメぇぇぇ~~っ!!イッちゃうっ!イッちゃうよぉぉぉ~~~っ!!!」
そう叫んで、Eカップの垂れ下がった乳房を揺らしながら、狂ったように腰を振る恵美子を想
像して、一人悦に入っている。

私は、妻が戻ったことをまだ誰にも話していない。
もし仮に分かったとしても、
「こんな姿になってしまった妻を、誰にも見せたくなかった。」
と、話すつもりだ。
今のところ私の計画は、誰にも疑われず、すべて問題なく進んでいる。
恵美子も、これまでの自分の身に起こった数々の出来事の裏に、最愛の夫である私が深く関係
していたとは全く感づいていないようだ。

こうして、ひょんな事から始まった私の企みは、途中では様々な紆余曲折があったものの、最
後には予想以上の素晴らしい結果をもたらしてくれたのだった。

私自身、最初から妻を望どおりの女にするなどという事は所詮夢物語だと、自分の中ではとっ
くにあきらめきってしまっているものと思っていた。
それどころか、最近では、独身時代にそんな野望を抱いていたということさえ忘れてしまって
いた。

だが、今思えば、全て捨て去ったと思っていたのは大きな勘違いだった。
確かにきっかけは恵美子自身が作ったのかもしれないが、そうなるように恵美子を追い込んで
いったのは、きっとこの私に他ならないのだろう。
恵美子は、私の妻となったときから、夫である私さえも全く気付かないうちに、性奴として生
きて行くよう運命付けられてしまったのかもしれない。
そう、恵美子は、知らず知らずのうちに、まるで悪魔に魅せられたかの如く、見えない罠『B
ooby Trap』の餌食となる命めを負わされてしまったのだった。

私は、ここ数年間の蓄えと、あれ以来、私の両親が色々と心配して援助してくれたすべてを、
彼らから妻を買戻すためと、この部屋の改造、(完全防音・SMプレイ仕様など)そして、妻
を責めるための様々な道具の購入に、すべて使ってしまった。
が、しかし、私は今まったく後悔していない。
何せ、私だけの、本当に、理想の妻を手に入れる事が出来たのだから・・・・
                      ―――完―――

卒業 1

BJ 7/16(月) 06:31:04 No.20070716063104 削除

 私の好きな夏目漱石に、「門」という小説があります。

 「門」の主人公は宗助という男です。親友を裏切り、その妻であった御米と結ばれた彼は、その後もずっと罪の意識を背負いながら、御米とともに暮らしています。社会から切り離されたような、お互いにお互いしかいない夫婦の淋しい日常、哀しみに満ちたいたわりあいが描かれているあの作品を、私は時折思い出します。
 あの夫妻の淋しさ、それと裏返しの結びつきの強さは、彼らの背負う過去からきていることは疑い得ません。
 彼らの裏切り、彼らの罪が、二人を心身ともに結びつけ、或いは縛りつけているのです。
 ―――そう。
 あの濃密な関係の奥には、暗い秘密が潜んでいるのです。

「あなた、起きてください。もう朝ですよ」
 遠慮がちに揺り動かす手で、その朝、私は目覚めました。
 見ると、そこにはいつものように妻がいます。寝巻き姿の私と違い、すっかり普段着に着替えた格好で。
「もう朝か。昨夜はあまり寝た気がしないな」
 私が言うと、妻はちょっと瞳を逸らしました。あまり感情を表に出さない妻ですが、さすがに付き合いも深まった今は、微妙な表情の変化で彼女が何を考えているのか分かるようになっています。
 つまり、今、妻は恥ずかしがっているのです。
「それに腰も痛い。やっぱりこの年で無理はするものじゃないな。瑞希はどうだ?」
 瑞希というのは妻の名です。
「私は別に」
 小さな声で言葉少なに答え、妻は私に背を向けました。
「早く起きて顔を洗ってください。そんな顔をして行ったら、会社の女の子に笑われますよ」  
 後ろで一本にくくった長い髪が朝の光に揺れているのを見ながら、私は昨夜抱いた妻の身体の感触を思い出していました。

「今日は遅くなりますか?」
「いや、何も予定はないから、いつもの時間に帰れると思う」
「そうですか」
 人によっては素っ気無く思うだろう妻の受け答えは、昔からずっと変わらないものです。結婚した当初はそんな妻の態度によそよそしさを感じてもどかしく思ったものですが、今ではもう馴れてしまいました。
 私は玄関口に立って、ぼんやりと見送る妻の顔を見つめました。
 妻はちょっと動揺したように、視線を逸らします。長い時間ひとと見つめあっていられないのも、また昔からのことです。  
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」 
 私は妻の声に見送られ、外の世界へ歩き出しました。
 すでに初夏の暑さを滲ませた日差しが、駅へと急ぐ私の背中に突き刺さるようでした。


 その日は午後三時をまわった頃にようやく外回りから解放され、私はべとべととまとわりついてくる汗まみれのシャツを不快に思いながら、目についた喫茶店に避難しました。
 アイスコーヒーを注文し、ハンカチで汗を拭いつつ、クーラーの効いた店内にほっとした想いを味わいました。まったくその日は殺人的な暑さだったのです。
 あまり流行らない店なのか客のまばらな店内に、懐かしいビーチ・ボーイズのサーフィンUSAが流れています。あの陽気なコーラスを聴くと、ああまた今年も夏がやってきたんだなぁという気がします。
 やがて運ばれてきたアイスコーヒーの、水滴で濡れた涼しげなグラスを見つめながら、私はキャビンに火を点け、深く吸い込みます。
 そう、夏はやってくるのです。
 今年も。

 私は妻の顔を思い浮かべました。今年の夏休暇にはまた彼女を連れてどこかへ旅行にでもいくのだろうか、と他人事のように考えて、ふと暗いものが心の隙間に差し込むのを私は感じました。
 もちろん、妻を外へ遊びに連れて行くのが厭なわけではありません。それどころか、妻が生活に必要な場以外ほとんど出歩かないことを、私は気に病んでいました。妻はまだ三十半ばと若く、子育ての忙しさもないのに、彼女の日常は私と私との生活に終始していて、あまりにも閉じられてしまっているように感じられるのです。それこそ、「門」の御米のように。
 だから、出来るだけ妻を外へ連れ出してもっと楽しませてやりたい、人生の喜びを味あわせてやりたいというのは、私の望みでもあったのですが、それとは別に胸の奥で去年の夏の出来事が意識すまいとしても浮かび上がってきて、私を動揺させるのでした。

 それはあの奥飛騨の宿での出来事―――
 私たちの―――秘密。


 煙草を揉み消した私は、会社に戻るため、店を出て暑い日の光の下へゆっくりと歩き出ました。にわかに滲みだす額の汗をシャツの袖で拭いながら、ふと見上げると、ぽっかりとした入道雲が青い空に浮かんでいました。

卒業 2

BJ 7/16(月) 06:46:13 No.20070716064613 削除

「今日は暑かったですね」
 Yシャツにアイロンをかけながら妻が言う声に、「そうだね」と生返事しながら、私はベランダの戸を開きました。生温かい夜風が、クーラーの効いた室内にのっそりと吹き込んできました。
 ベランダで煙草を取り出した私を見て、妻はため息をつきました。
「禁煙するんじゃなかったんですか?」
「少しづつ量は減らしてるよ」
 嘘です。
「朝顔が綺麗だな」
 マンションの小さなベランダには、妻が育てている花木が遠慮がちに置かれています。そのときは薄青の朝顔が形のいい花を咲かせていました。
「もうそろそろ、きちんと健康のことを考えてもいい歳ですよ」
 誤魔化されませんから、とでも言うように、妻は少しだけきつい目をして言いました。結婚した当初は遠慮して私の素行にはほとんど口を挟まなかった妻ですが、近頃はちょっと口うるさくなっていました。
「食事の後の一服は格別なんだ。――うん、分かってる。もうすぐやめるから」
「本当に約束してください」
「約束する」
 即答した私の言葉にあまり真実味を感じなかったのか、妻はまだきつい目をしていましたが、諦めたようにくるっと背を向けました。
「私はひとりぼっちになるのは厭ですよ」
 ぽつりとそんなことを呟いて部屋を出て行く妻の背中を紫煙越しに眺めながら、私は深く息をつきました。

 私の両親はまだ健在ですが、妻は幼いうちに両親と死別していました。彼女が小学校にあがってすぐの頃と聞いています。その後、ひとりになった妻は、古い旅館を経営する母方の叔父夫妻のもとに引き取られ、私と見合い結婚するまでの20数年、そこで暮らしていました。
 その間、大学に進学することも就職することもなく、ずっと叔父の旅館を手伝っていたそうで、妻の世間が狭いのもそんな過去に一因があるのでしょう。
 叔父の奥さんには格式高い旅館で働く者としての作法をだいぶ教え込まれたようで、妻の挙措やちょっとした言葉遣いなどにそれを感じることもありますが、それよりも、どちらかといえば無愛想な妻によく客商売が務まったものだと感心します。かつて冗談めかしてそのことを言ったとき、妻がちょっと暗い顔をして黙ってしまったので慌てたことがあるのですが、何かその当時に厭な記憶でもあるのかもしれません。私と結婚してから、妻はその叔父夫妻とさほど密な関わりを持っていませんでした。
 天涯孤独とは言わないまでも妻の身の上はそれに近いものがありました。もし私に死なれたら・・・と、不安に感じるのも無理からぬところかもしれません。

 しばらくして寝室へ行くと、妻はすでにベッドの中でした。明かりを消して私もベッドに横になると、妻は私を避けるように反対向きに寝返りをうちました。・・・まだ怒っていたようです。
 暗がりの中、私はそっと手を伸ばして妻の薄い肩を触りました。柔らかい皮膚の下、尖った骨の感触を掌に感じながら、ゆっくりとなぞるように妻の身体に手を這わせていきます。妻は身じろぎもせずに横たわったままでしたが、私の手が胸に触れると、わずかに身をすくめるような動作をしました。けれども、それ以上抗いはしませんでした。
 寝巻き越しに温かい乳房を掌に受けていると、妻の脈拍がかすかに感じられました。
「瑞希」
 名を呼ぶと、妻は少し気羞ずかしげに、ようやく私のほうへ向き直りました。その肢体をぐいっと引き寄せます。胸に胸を寄せると、妻の腕がおずおずと私の頸を抱きました。
 そのまま私は妻に口づけました。唇を合わせたまま、妻の耳に指を絡ませると、妻は閉じていた瞳を薄く開きました。
 ふるふると睫毛が揺れ、黒々と濡れたまなざしが私を見つめます。その表情に蟲惑されながら、私は顔を離し、今度は妻の頸筋に唇を這わせました。妻の肩が揺れ、私の背中を掴んだ手指に力がこもります。
 そのまま胸元まで唇を這わせた後、私はわずかに身体を離して妻の寝巻きの前を開いていきました。妻は頸を捻じ曲げて横を向き、瞳を閉じています。やがて開かれた妻の胸が、暗闇に仄白く浮かび上がりました。
 ゆっくりと覆いかぶさるように身体を倒して、私はその胸の頂きに口をつけます。
 小さな啼き声が暗い室内に静かに響きました。

卒業 3

BJ 7/17(火) 22:30:28 No.20070717223028 削除

 去年の夏。
 休暇をとった私は、妻を伴って岐阜県奥飛騨へ出かけました。

 ―――妻を他の男に抱かせる。

 そんな、背徳的な企みを抱いて。
 妻は私の計画を知らず、いつものように言葉少なに、しかし嬉しそうに私とともに家を出たのでした。
 そんな妻の様子に心を痛めなかったわけではありません。けれども、当時の私は自分の企みに憑かれていました。
 物静かで、時として退屈なほど禁欲的な妻が、他の男の手によって女としての未知の素顔を露わにする。そんな瞬間を、どうしても見てみたかったのです。
 やがて―――私の願望は現実のものとなりました。
 それも、私の想像を遥かに超えて。
 妻は―――


 妻は薄闇に蒼白くけぶる脾腹を喘がせて、私の指の玩弄に耐えていました。しっとりと吸いつくような肌の感触に魅了されながら、私はそろそろと掌を這わせ、均整のとれた妻の乳房の頂点に指を触れさせました。小さく尖った薄桃色の乳首を親指の腹でやんわり刺激すると、妻がかすかに呼吸を乱すのが分かりました。
 乱れた髪がシーツの海に散らばり、上気した妻の頬にわずかに貼りついています。
 そんな姿を私の目に晒しつつ、喘ぐ胸を小さく隆起させ、必死になって声を殺している妻。その顔に口を近づけて、“そんなに我慢しなくていいんだよ、ここには二人だけしかいないんだから”と囁きかけたくなりながら、しかし私の頭はまったく別の情景も思い描いていました。
 それは山深い古宿の一室。素朴な畳の香り。近くを流れる渓流のせせらぎ。窓の外の深い闇―――
 静けさの合間を縫うような吐息。絡み合う身体。肌の熱気。汗。女の細腰を掴む男の太い腕。のけぞる背中。肉のぶつかる音。乱れ、跳ねる髪。紅潮した顔。歪む口元。
 男の腰が一撃を加える度、組み敷かれた女の肢体が大きく震え、啜り泣きのような喜悦がその口から洩れ聞こえます。ぐずぐずと崩折れてしまいそうな腰は、しかし物欲しげにくねり、次の刺激を求めているのです。
 女は私を見ています。その意識は半ば飛んでしまっているようで、男に突き入れられる度ごとに、虚ろな視界が揺れ、その焦点を失いかけます。しかしそれでも女は私を見ているのです。私を見つめているのです。
 私は思わず悲鳴をあげたくなります。もうやめてくれ、と叫びたくなります。しかし、それは出来ません。何故なら女と同じくらい、私も昂ぶっているからです。真実は肉体に宿り、言葉は虚偽に過ぎないという真実を私は思い知ります。
 女の発する声は、次第に高く、透きとおっていきます。苦悶のためでなく、ぎゅっと寄せられた眉根。唇の端から垂れたよだれがきらきらと光っています。やがて女の身体はがくがくと揺れ始め、カタルシスの到来を予感させます。私を見つめる女のまなざしに怯えのようなものが走ります。私は何も言えません。声を発することすら封じられたまま、食い入るように女を見つめています。
 ついにそのときがきて、女は昇りつめます。大きく喘ぐ胸が盛り上がり、男のものを飲み込んだ腰が蠢きます。咥えこんだものをきつく締めつけるその中の動きまでが見えるようで、私ははっと息を呑みます。
 高みを極めた瞬間、女は一声高く長啼きします。ぎゅっと寄せられていた眉根が緩み、汗ばんだ顔がさっと色づきます。その視界は今度こそ焦点を失い、視線は宙に浮きます。今の女にはもう何も見えていないのです。快美だけが彼女の心身を攫い、満たしています。この世の何もかもから解放されたようなその表情。苦悶から深い愉悦へと移り変わってゆく女の変化が、さながらスローモーションのように、どこまでも克明に、私の目には見えているのです―――


 ・・・そこで唐突に我に返った私は、身体の下で妻が不思議そうに私を見上げているのに気づきました。
 その無垢な瞳。
 この妻が、たった今まで幻視していた女と同じ女だという事実に、私は慄然とします。
 あれはたしかにあった出来事なのです。それなのに私は、いまだにその事実を受け止めきれてはいません。しかし、忘れることも決してありません。
 妻をこの腕に抱きしめるとき、私はいつもあのときの情景を思い出すのです。それは引きずりこまれるような感覚です。私は腕の中の妻を愛しながら、あのときの妻を想い、知らず知らずのうちに我を忘れているのでした。

 それはどうしようもなく激しく、そして暗い昂ぶりでした。

「どうかしたんですか?」
 真顔で黙りこくっている私に、妻が心配そうに声をかけました。
 妄念を振り払うように、私は強いて笑みを浮かべました。
「ああ、ちょっと考え事をしていた」
「こんなときに・・・」
「ごめんごめん、瑞希をこんな状態にしておきながら放ったらかしにして悪かった」
 真面目に言ったのですが、妻はそれを自分に対するからかいと取ったのか、少し顔を赤らめて「別に私は・・・」と呟きました。
 私は妻の横に寝転がり、その腰をぐっと引き寄せて、寝巻きの下に手を忍ばせました。慌てたように抗う動きを見せる妻に委細構わず、私の手は寝巻きの下の下着のさらにその下へ入り、柔らかい毛叢をさすりました。繊毛も、手の甲に張り付く布も、しっとりと濡れていました。
「これで言い訳出来ないだろう」と、口に出したわけではありませんが、妻はそんなふうに言われたように感じたのか、羞ずかしげに小さく呻いて、私のほうに向き直り、私の腕にしがみつくようにして、肩口に顔を埋めました。さらりとした黒髪が私の顎に触れます。
 私の指は自然と毛叢の奥の閉じ目へと伸びました。湿り気を帯びたそこの、温かい肉の感触が私の指を包みます。そこに指が達した瞬間、私の腕に顔を押しつけたままの妻の頸が、くんと動き、零れた吐息が腕をくすぐりました。妻はそのまま股を閉じ、私の手はすべやかな太腿に挟みこまれます。同時に、肉の輪がきゅっと私の指を締めつけるのを感じました。

 そのままの格好で、私たちはしばし静かな時間を過ごしました。
 指の先に妻の熱を感じながら、私は傍らの妻を見つめ、彼女の呼吸の音に安らぎを感じていました。
 幸せ―――という言葉を想いました。
 そう、たしかにそのときの私は幸せだったに違いないのです。仕事も上手くいっていたし、何よりもこうしてすぐ傍にいつも妻がいてくれる。私と彼女の安息を妨げるものは、何もない。
 何もない、はずでした。

 しかし―――

 だらだらとした安息の日々の奥には、抑えようとして抑えきれないものがひっそりと蠢いているのを私は常に感じていました。それは、本来なら手を出してはいけない禁断の果実を口にしてしまった者だけが感じる、憂鬱な衝動。

 決して色褪せてくれない、記憶―――

「何を考えていらっしゃるんですか?」
 気がつくと、妻が顔を上げて、私の顔を見つめていました。
「今日のあなた、どこか変ですよ。すぐにぼうっとして」
「・・・暑かったからかな」
 そう―――
 きっとこれは、暑さからくる気の迷い。
 何しろ、もう夏は近いのだから―――

「瑞希は今、幸せなのかな」
「どうしたんですか、いきなり」
「別に・・・ちょっと聞きたくなって」
 黒々とした瞳を大きく開き、妻はしばし私を見つめていましたが、やがて真顔のまま、「幸せですよ」と答えました。
「本当に・・・いつまでもこのままの日々が続けばいいと思っています」
 その声は、心底そう願いながらも決してその望みが果たされないことを知っているかのように儚げに響いて、私は少しどきっとしました。

 妻は―――あのときのことをどう思っているのだろうか。

 今まで何度となく考えたその疑問が、また蘇りました。
 あの日以来、私たちの間で、奥飛騨の宿での出来事を口にしたことはありません。それは二人の間のタブーでした。

 私の心が妻を裏切ったこと。
 妻の身体が私を裏切ったこと。

 そのすべてに蓋をして、なかったように振る舞って、私たちはようやく安定を得たのです。それは表層的な安定かもしれません。私の心の奥底であのときの出来事がいつまでも消えずに揺らめいているように、妻もまた忘れてはいないのでしょう。妻は決してそのことを私に悟らせようとはしませんが。
 夜の営みの中で私は妻を抱きながら、時々狂おしいほどそのことを意識します。何も言わない妻の耳元に口を近づけて、囁いてみたくなります。
 まだ覚えているのかい―――と。
 あのときのことを。
 あの悦びを。
 そして―――あの男を。

卒業 4

BJ 7/19(木) 21:20:07 No.20070719212007 削除

 暮れかかる日と裏腹にネオンの色があちこちにきらめきだした街の人波をすり抜け、その夕方、私は目指す『コラージュ』に辿り着きました。
 『コラージュ』は以前よく利用していた店ですが、ここ最近はめっきり足が遠のいていました。雑居ビルの地下にあるそのクラブの深海を模したような内装を懐かしく眺めながら、私は歩みを進め、待ち合わせた男のテーブルにつきました。
「久しぶり、だな」
 その男―――赤嶺はよく響くバリトンで言い、にっと笑いました。
「ああ、一年ぶりだ」
「とりあえず何か注文しろよ」
 ぐいっと私にメニュー表を押し付けつつ、赤嶺は飲みかけの杯に口をつけました。

 赤嶺という名のこの風変わりな男は、高校以来の私の旧友でした。私の数少ない友人の中でもっとも付き合いの長い一人ですが、その長さのわりに私は彼のことをよく測りかねています。
 いついかなるときも本音か冗談か判断に困るようなことしか言わないこの男は、その押しの強さと独特の凄みで、昔から異彩を放っていました。不敵といえばこれほど不敵な男を私は他に見たことがありません。ひとを小馬鹿にしたような目つき、嘲弄的な言辞で数多くのトラブルを起こしながらも、ふんっと鼻で笑うだけで一向に動じる気配のないこの男は、しかし独特のカリスマ性を備えていて、私自身、彼の奔放さにはずっと魅力を感じていました。細々とであれ、赤嶺との付き合いは高校卒業後も続き、お互いに社会に出てからも時折連絡を取っていたのです。
 そう、一年前のあの日までは―――

「元気そうでまずは何よりだな」
 ピザの切れ端を摘まみながら、まったく心のこもっていない口調で赤嶺は言いました。
「お前もな」
「奥さんは元気にしているのか?」
「・・・ああ」
 短く答えながら、やはり赤嶺が「奥さん」と口にするのを聞いて動揺を抑えられない自分自身を私は感じました。そんな気配を敏感に察したのか、赤嶺はそのまなざしに悪戯な笑みを浮かべて私を見つめました。
 その唇がゆっくりと動きました。
「―――なんだ、まだこだわっているのか」
「・・・こだわって、わるいか」
 他人の心に聡い赤嶺に誤魔化しは通じないので、私は投げやりな口調で答えました。
「拗ねるなよ。子供じゃあるまいし。第一、あのときのことはお前が言い出したんじゃなかったか」
「その話はよそう」
「その話がしたくて今日は来たんだ」
 平然と赤嶺は切りかえしました。
「この一年、忙しくてなかなかお前と連絡を取る時間がなかったからな」
「・・・なんだ、俺に気を遣っていたわけじゃないのか」
「なんでお前に気を遣う必要がある?」
 そのとき、ウエイターが料理の皿を持ってきて、私たちの会話は束の間中断しました。

 ウエイターが去った後、空になった杯にバーボンを注ぎ足しつつ、赤嶺はきらきらとよく光る瞳で私を見ました。
「俺からすればむしろ、お前から連絡が来なかったのは意外だったかな」
「どうして?」
「あのアソビが一回きりで終わるようなものだと思っていなかったからさ」
「・・・・・・」
「あのときはお前の嗜好に応えるよう、俺なりに努力したつもりだがな。お前の望みを見事に叶えてやったし」赤嶺はそこでにやりと笑いました。「それに奥さんのほうだって、ずいぶんと満足させてやったつもりだ」

 すうっ、と―――

 塞がりかけた裂け目に、再び鋭利なナイフが刺し込まれるのを私は感じました。

「きっとすぐにでも連絡がきて、次の日取りを決めるもんだと思い込んでいたんだけどな」
 私は黙って手元の酒杯を空にしました。
 そして、やっと言いました。
「お前にとってはただのお遊びでも、俺たち夫婦にとっちゃ深刻な問題だ」
「何を偉そうに。お前が言い出したことじゃないか」
「それはその通りだけど・・・」
「優柔不断な奴だな」
 赤嶺は軽蔑したように、高い鼻を蠢かせました。
「結婚だ夫婦だといったって、結局は、社会生活をそつなく健康的(『厭な言葉だな』と赤嶺は呟きました)に送るための一形式に過ぎないし、その実体は昔から変わることのない男と女だ。ましてや、お前たちには子供がいないんだからな。楽しめるうちに楽しんだほうが得ってもんじゃないのか」
「結婚したこともないくせに、よくそれだけ分かったようなことを言えるな」
「分かってるから結婚しないんだ。そんなこたぁともかく、奥さんのほうはあのときのことについてどんな感想を持ってるんだ? そっちのほうが俺は気になるね」
「瑞希は――――」

 ―――あの夏の日。
 妻を他の男に抱かせてみたいという私の妄執は、現実のものと化しました。
 現実のものとさせたのは、赤嶺の力です。赤嶺は言葉巧みに妻を誘い、操り、私の眼前で彼とまぐわうことを妻に承知させました。
 そして―――妻は本当に赤嶺に抱かれたのです。
 その一部始終を私は見ていました。
 最初は演技だった、と妻は言いました。私への復讐のつもりで―――これも赤嶺が彼女へ吹き込んだ言辞ですが―――妻は赤嶺に抱かれることを承知したのです。
 しかし、途中から演技は演技でなくなりました。
 嘘は快美の喘ぎへと変わり、裏切りの怯えは悦びの痙攣へと変わりました。
 そう。
 赤嶺との交わりで、妻は芯から感じてしまったのです。
 このことは翌朝になって、妻自身の口から告白されました。告白されなくても、すべてを見ていた私には、何もかも分かりきった事実でした。あのような妻の姿を見たのは、あのときが最初で最後です。
 私への告白を終え、妻は泣きました。怖い、と言って泣きました。これから私たちがどうなるのか、どうなってしまうのか、それが不安でたまらない―――そう彼女は言いました。
 その不安にどう答えてやるべきなのか、私には分かりませんでした。
 だから―――高山へ向かう電車の中、震える妻の肩を抱いたあの夏の朝以来、妻は口をつぐみ、私も口をつぐんで、私たちの「夫婦の日常」を保ってきたのでした。

「瑞希は・・・何も言わない。たぶん、今でも恐れているから。奥飛騨でのことが原因で俺との生活が壊れてしまうことをね」
「―――お前はどうなんだ?」
「え?」
 思わず聞き返すと、赤嶺は額にかかった髪をかきあげながら、斜めに見下ろすように私を眺めやりました。
「お前も恐れているのか」
「そりゃあ・・・そうかもな。誰だって失うのは怖い」
「どうしてただのアソビに壊れるとか失うとか、そんなことばかり考えるのかね」
「お前には分からないかもしれないけど、普通の人間ならそうだよ」
「でもお前はあのとき、愉しんでいたんだろう?」
「・・・・・・・・」
「俺に抱かれる奥さんの姿を見て、お前は興奮していただろ?」
「・・・・・それは」
「今さら言葉を濁すなよな」
 執拗な追求に、私は両手を上げました。
「わかったよ。そうだ、たしかに興奮していた。でも愉しんだというのは、ちょっと違う」
「違わないさ。まあいい。それだけは聞いておきたかったんだ」
 謎めいた口調で呟いて、赤嶺は咥えたピースに火を点けました。


 夜の十時頃に赤嶺と別れ、私は家路につきました。
 電車に揺られながら、私はいつしか沈み込み、赤嶺との会話を反芻していました。

 ―――お前はあのとき、愉しんでいたんだろう?

 赤嶺の問いかけは、私自身がこれまで胸の内で繰り返したものでもありました。
 妻との生活をつつがなく続けるため、彼女をこれ以上傷つけないために、理性はその言葉を必死になって否定します。

 けれど―――

 この身体に宿るあのときの記憶は、私の理性を嘲笑うように、じわじわと熱を高めていくのです。
 今夜の赤嶺との会話は、そんな乾いた真実を掘り起こさせ、正面から私の喉もとに突きつけるものでした。

 いつもの駅に着いたことを告げるアナウンスが響き渡り、私は顔を上げました。
 吊り革を握る私の掌は、いつの間にかじっとりと汗ばんでいました。


「はい、お水」
 妻が差し出したコップを、「ありがとう」と言って私は受け取りました。
 静かに水を飲み下していく私を見つめながら、妻は私の正面に腰掛けます。
「でも、珍しいですね。あなたがそんなにお酒を召し上がるのは」
「ちょっとね、昔の友達と会って懐かしかったから」
 言いながら、私は妻の瞳から視線を逸らさずにいられませんでした。
 風呂からあがったばかりの妻は、普段は後ろでひとつにくくっている髪を肩先まで垂らしていました。水気を帯びて艶やかに光る黒髪に、細い頸から胸元にかけての白さが眩しく映ります。
 私も妻も静けさを好む性質なので、家に居るときはろくろくテレビもつけないのですが、今夜に限ってはその静けさが居心地悪く感じられたので、私はソファから立ち上がり、棚の上のオーディオ機器をいじりました。
「あ、この曲・・・」
 やがて流れ出した曲を聴き、妻はちょっと瞳を輝かせて私のほうを向きました。サイモン&ガーファンクルのこのヒット曲、サウンド・オブ・サイレンスは、私たちふたりにとって少しばかり思い出のある曲でした。この曲が主題歌に使われている映画「卒業」は、私たちが夫妻で見た最初の映画(リバイバル上映でした)なのです。
「懐かしいですね・・・たった数年前のことですけど」
「うん・・・それはそうだね。ああでもやっぱり、あんまり懐かしいとか言うのはよくないな」
「どうしたんですか、急に」
「いや、俺も瑞希も若いんだしさ、まだまだ過去を懐かしんでいいような年齢じゃないよ。そんなことをしていたら、すぐに老けこんでお爺さんとお婆さんになってしまう」
「・・・やっぱり酔っていらっしゃるんですか?」
「そうかもしれない」
 私自身、自分が何を言おうとしてこんなことを口走っているのか分からないまま、私はふらふらと戻って、今度は妻の隣のソファに腰掛けました。「お酒くさいですよ」と困ったように微笑んで、妻は私の肩にそっと頭を傾けました。

 気がつくとサウンド・オブ・サイレンスは終わっていて、ミセス・ロビンソンの陽気なメロディーが流れています。

「今年の夏はどこに行こうか?」
 そう口に出してから、私はそっと隣の妻の顔を見ました。妻はいつの間に瞳を閉じていて、私の言葉も聞こえなかったように、静かに音楽に耳を傾けているようでした。
 しかし、しばらくして、「どこでも結構ですよ。どこにも行かずに家で静かに過ごしたってかまわないし」―――ぽつりと呟くように、妻は言いました。
「・・・いや、瑞希はいつも家にこもりがちだし、休みくらいは外へ出たほうがいいよ」
 私は懐に丸めこんだ紙を取り出しました。
「ここへ―――行かないか」
 それは赤嶺から紹介された旅館―――黎明荘のパンフレットでした。

卒業 5

BJ 7/20(金) 18:20:26 No.20070720182026 削除

 古都京都の日本海側に面する宮津市天橋立は、古来より日本有数の景勝地として有名ですが、私も妻もこれまで訪れたことがありませんでした。
 夏の休暇が始まってすぐ次の日、私たちは大阪梅田の駅から福知山線に乗り換えて、目指す天橋立駅へ辿りつきました。
 青空の美しい、よく晴れた日のことでした。


「お前、天橋立には行ったことあるか?」

 唐突に赤嶺にそう聞かれたのは、この前の一年ぶりの再会のときでした。
「いや、ないけど」
「ふうん。じゃあ、行ってみる気はないか? 実は今年の夏休暇に行こうと思って宿を予約していたんだが、どうも仕事で身体が空きそうになくてな」
 そう言って、赤嶺は背広の内ポケットから旅館のパンフレットを差し出しました。
「黎明荘ね。良さそうだけど、高そうな旅館だな」
「ああ、高い。だけど知り合いから特別に優待券を貰ってな。これを使えば格安で泊まれる。もしお前が奥さんと行くってんなら、その券をやるよ」
「いいのか?」
「かまわんよ。どうせその優待券の有効期限も来月までだし、俺が利用する機会はなさそうだ。ちなみに俺もツインの部屋で予約していたから、予約者の名前を変更するだけで部屋の心配をする必要はない。日数は三泊になってる」
「ツインね。明子さんとでも行く気だったのか?」
「さあな」
 赤嶺はふっと笑いながら、宙空へ煙を吐き出しました。


 駅から歩いて15分ほどの距離にある黎明荘は、パンフレットに載っていたとおり、由緒ありげな木造二階建ての瀟洒な建物でした。
 チェックインを済ませた私たちは、綺麗に整えられた和室の部屋で寛いだ後、外へ散歩に出かけました。時刻はまだ昼過ぎで夏の日差しは暑く、妻は宿で日傘を借りました。
「まるでどこぞのお嬢さんみたいだな」
 袖の短い水色のワンピースという妻にしては珍しい服装で、日傘を差して歩く彼女をからかうと、
「そんなことより、早く行きましょう」
 ちょっと怒ったように言って、妻は横を向いてしまいました。

 宿を出た私たちは智恩寺の境内を通り抜け、回旋橋を渡って宮津湾に浮かぶM字型の砂浜に足を踏み入れました。
 豊かな植生、草いきれのつよい匂いの中を、かの有名な松並木の道に沿って私たちは歩きました。
「あら」
 突然、妻が声をあげました。その視線の先の砂浜には、たくさんの水着姿の人たちが海水浴を楽しんでいるのが見えました。
「ここでは海水浴も出来るんですね。私、知りませんでした」
「俺も知らなかった。せっかくだから、明日にでも泳ぎにいこうか」
「でも、水着を持ってきていませんし・・・」
「買えばいいよ」
「でも・・・」
 言葉を濁すところを見ると、妻は泳ぎが出来ないのか、それとも水着になることが厭なのか。彼女の性格を考えると、どうも後者のような気がしました。
「せっかく遊びに来たんだし、瑞希も少しは解放的な気分になって楽しんだほうがいいよ。明日はぜひ海へ行こう」
 決めつけるように言って私はさっさと歩き出します。妻は黙ってついてきましたが、当惑したように握った日傘の柄をくるくると回していました。

 砂浜を通り抜け、喫茶店で少し休憩した後、私たちは府中側から観光船に乗って戻ることにしました。
 船が動き出すとすぐ、混雑した船内に録音された声のアナウンスが響き渡り、天橋立の歴史について解説を始めます。私と妻は穏やかに揺れる阿蘇海を見つめ、また先ほど歩いたばかりの砂の架け橋を今度は海上から眺めました。
 夏の日はゆっくりと暮れかかり、海面をそよ吹く風もすでにしっとりとした夕刻の気配を含んでいるようでした。
 
 わずか10分程度の船旅を終えて観光船は桟橋に着き、私と妻は船を降りて黎明荘への道を歩きました。
「やっぱり綺麗なところでしたね」
 呟くように妻は言いました。
「来てよかった?」
 私が聞くと、妻は真顔でうなずきました。その手にはすでに閉じられた日傘が、しっかり握られています。
 そうこうしているうちに、数時間前に出たばかりの黎明荘の門が見えました。粋な造りのその門を、私たちがくぐり抜けようとした―――
 まさにそのときでした。
 玄関の戸が開き、見覚えのある男が姿を現したのです。
 私たちの姿を見つけ、何気ない様子で軽く手を上げ、ふっと笑みを浮かべて見せたその男は―――赤嶺でした。

卒業 6

BJ 7/22(日) 14:22:44 No.20070722142244 削除

 まったく予想外な赤嶺の登場に私は驚き、次の瞬間、思わず妻に目をやっていました。
 妻が赤嶺と再会するのは、一年前のあの日以来初めてのはずです。
 二度とはない―――と妻が思っていたのかどうかは分かりませんが―――はずの再会を、今こんな場所で突然迎えた妻。その顔からさっと血の気が引く様が、私の目にはっきりと見えました。
 ひやり、と冷たいものが私の胸に生まれました。
「どうしたんだよ、鳩が豆鉄砲をくらったみたいな顔をして」
 赤嶺は唇の端で笑みながら、ためらいのない足取りで近づいてきました。私たち夫婦それぞれの動揺を知ってか知らずか―――いや、他人の感情の機微に鋭いこの男は、たぶんすべてを承知の上で、何もないような顔をしているに違いありません。

「奥さん、久しぶりですね」ゆっくりと近づいてきた赤嶺は、笑みを崩さないまま妻のほうを向いて言いました。「―――ちょうど一年ぶり、ですか」
 妻は黙ったままでした。放心したように広げられた細い手指が、わずかに震えているのが視界の隅に入りました。
「・・・お前、なんでここに」
 ようやく絞り出した私の声は、まるで別人のもののように感じられました。
「いや、予定していた仕事が相手先の都合で延期されて、身体が空いたんでな。お前に渡した優待券もまだ余っていたし―――駄目もとで連絡してみたら、シングルの部屋ならキャンセルが出たばかりで泊まれるということだったから、俺一人でも来ることにしたんだよ。ついさっき着いたばかりだ」
 あっさりと語られるその言葉は、真実なのか偽りなのか―――ともかくも、赤嶺に動じる気配はまったくありませんでした。

「さて、と・・・俺もかの有名な天橋立を拝んでくるかな」赤嶺は大きく伸びをした後、私と妻を順に見つめました。「それじゃあ、また後で」
 そう言い残して、赤嶺はさっさと立ち去っていきました。その背中を阿呆のように見送っていた私でしたが、ふと気づくと、妻は一人で玄関のほうへ歩みを進めていました。
「瑞希」
 小さく声をかけましたが、妻はその言葉が聞こえなかったように玄関の戸を開き、すっと中へ入ってしまいました。
 私は大きくため息をつきました。

 部屋へ戻る途中、洗面用具を抱えた妻とすれ違いました。
「お風呂へ行ってきます」
 私の目を避けるように妻は言い、私が何か言うより早く、さっさと廊下を歩み去ってしまいました。
 仕方なく、私も一度部屋に戻り、それから宿の大浴場へ向かいました。


 妻はショックを受けているのだろうか。
 それとも怒っているのだろうか。
 たぶんその両方だろう、と私は思いました。
 天橋立への旅とこの宿への宿泊が、そもそも赤嶺の発案であることは妻には伏せていました。この一年の間、赤嶺の名前それ自体が、私たちの間では禁句のようなものになっていたからです。
 何も問題はなかった―――はずでした。
 けれども、先ほど赤嶺の出現を目の当たりにした妻は、一瞬にして事情を解した―――ように、誤解したに違いありません。
 それはつまり、去年の夏の再現です。
 妻を騙し、赤嶺にその身体を預けさせようと謀った、あの目眩めく時間。
 今回もあのときの状況によく似ています。妻が誤解するのも無理はありません。
 しかし、それはあくまでも誤解に過ぎず、今日ここに赤嶺が現れるなどということは私は想像もしていませんでした。
 いったい、あの男は何を考えているのでしょうか。

 熱い湯に浸かりながら、私はそんなことをつらつらと考えました。
 温まってゆく身体と呼応するように、私の心の中もじわじわと熱っぽくなっていくようでした。


 風呂から出て部屋へ戻ると、浴衣に着がえた妻が、窓際の椅子に腰掛けていました。
 すでに日はほとんど落ちかけ、窓越しに見える静かな海は鮮やかな夕陽に染まっています。この部屋にもその光は差し込んでいて、妻の横顔を朱く染めていました。
 私は黙って窓際に近づき、妻の背後に立ちます。妻は相変わらずその顔を窓の外へ向けたきりで、振り向こうとしません。浴衣の襟元からのぞく細いうなじが不思議なほどに艶めいて見え―――
 私は息を呑みました。

「瑞希・・・さっきのことだけど」
「聞きたくありません」妻はにべもなく言いました。
「説明しないと分からないだろう」
 静かな口調に強いものを滲ませた妻の声にやや気圧されながら、私は言葉を重ねました。
 ようやく妻は振り返り、私を見つめました。夕焼けの海を背後に置き、すっと顔をもたげて私を正面にとらえた妻の貌は冷たく冴えていて、瞳だけがきらきらと輝いていました。
「どんな説明をされるおつもりなんですか?」
 普段とは雰囲気の違う妻の様子にはっとしながら、私は今までの経緯を簡単に話し、赤嶺がこの宿に来たことに、自分の意志が働いていないことを説明しました。
 妻は黙って話を聞いていました。私の話が終わると、妻は視線を下げて何か考え込んでいましたが、やがてぽつりと「それなら赤嶺さんはなぜ、ここに・・・?」と言いました。
「私たちがいると分かっていて、なぜ、わざわざ・・・」
「俺たちがいると分かっているから来たのかもしれない」
 私の言葉に、妻は顔を上げました。
「それはどういうことですか?」
 先ほどとはうってかわって、弱々しい光を湛えた瞳が私を見つめました。
 私は少しの間黙り込んで、そんな妻の表情を見返しました。
「・・・瑞希はどう思っているのかな?」
 しばらくして、私は口を開きました。
「何のことですか?」
「赤嶺のことを。―――ひいては一年前のことを」
 妻ははっと息を呑んだようでした。
「分かってる。今まではそれについて触れないことが、俺たちの間の約束だった。だけど」
 だけど―――
 今日ここで赤嶺と会って、私たちの過去が亡霊のように蘇ってくるのを感じて、そこから目を逸らすのは、もはや出来ない相談でした。
 いや―――本当の真実はそうではありません。
 なぜなら、私も、おそらくは妻も、あの記憶を忘れたことはないから。私と妻の静かな生活にあのときの出来事は常に沈殿していました。
 そして―――今も。
 今も―――

 言葉にはしなかった私の気持ちを読み取ったのか、妻はうつむき、重ねた両手を不安げに擦り合わせていました。


 熱いな―――


 エアコンのよく効いた部屋にいながら、ふと私はそんなふうに感じます。
 頭の芯はぼんやりと霞むようで、窓の外の海を染める朱色が私の内側にまでも滲み、浸透していくようでした。

 うっとりするような―――その朱。
 その朱を背に妻は座っていて―――


 熱い―――


 そんな、眼前の妻の、優美な線を描く肩の細さが。

 浴衣の裾から伸びた二本の白い脛が。

 襟から覗く胸元の仄暗い翳が。


 そのときの私の目には、何故かぞっとするほど妖しいものに映ったのです。
 

 そして―――

 気がつくと私は妻に近づき、その身体を抱き寄せていました。

 不意のことに驚く妻。その唇を吸いながら、私は力づくで彼女の身体を畳の上へ押し倒しました。
「いや・・・・・」
 抗う妻の声も聞かず、私の手は妻の浴衣の裾を割っていきました。
 すぐに雪白のふくらはぎが露わになり、その眩しさに私はいっそう駆り立てられます。
 畳の上に仰向けにされた妻は、言葉もない様子で私を見ました。その潤んだような瞳が、私の胸をざわざわとかき乱しました。

「赤嶺に触れられたときのことを覚えているか?」

 右腕で妻を押さえつけ、左手でその柔らかな肢体を愛撫しながら、私はいつしかそう囁いていました。
 妻の表情が凍りつくのがはっきりと見えました。
「あのとき、瑞希は凄く感じていた」
「やめて」
 か細い声が妻の口から洩れます。
「あんな瑞希は見たことがなかった」
 囁きながら、私は左手を妻のブラジャーの下に差し入れて張りのある胸乳を握りしめ、親指と人差し指の腹で乳首をきゅっと摘まみました。
「あう」
 切なげに眉をたわめ、私を掴む妻の手から力が抜けました。
「あのときは明るくて、瑞希の表情の変化がよく見えた」
 無意識に、妻の乳首を掴む指に力が加わっていきました。
「痛い・・・・」
「最初は後ろからだった。瑞希はうつぶせになって、後ろから赤嶺にされていた」
 私は左手を妻の胸から離すと、今度は下半身を小さく覆う布に手を伸ばし、薄い生地のそれを引き下ろしました。滑らかな下腹のさらにその下、股間の艶やかな繊毛が露わになります。妻はもう、ろくな抵抗をしていませんでした。ただ、その太腿から真っ白な脛にかけてだけが、時折引き攣れるようにがくがくと震えていました。
「瑞希は感じていた。本当に気持ちよさそうだったな。赤嶺のあれはそんなに良かったのか?見たことのないような動きで腰を振っていたじゃないか。そうしていないと耐えられないみたいに、いい声をあげながら」
「もう許して」
 ようやく絞り出したような妻の声はすでに嗚咽まじりでした。
 私はそんなふうに泣いている妻の訴えを無視して、露わになった翳りのその奥に秘匿された恥部に指を差し込みます。

 その、よく馴染んだ肉の感触。
 思わず息を呑むほどに、そこは溢れていました。

「―――濡れている」

 短く告げた私の言葉。
 まるで断罪されたかのように、妻の泣き声がいっそう高くなりました。

 その声が―――合図となりました。
 私の意識はその瞬間を境に、完全に飛んでしまったのです。


 それは何かに憑かれたような、物狂おしい時間でした。


 気がつくと、私は妻の中に果てていました。
 その手には先ほど剥ぎ取った妻の下着が握られています。
 髪も浴衣も乱れた格好で、私に組み敷かれている妻。その呆然としたような表情を見つめる私の顔も、さぞ呆然としていたことでしょう。
 日は完全に暮れ落ち、彼方に見える微弱な残光だけが、私と妻の身体をわずかに染めていました。

卒業 7

BJ 7/24(火) 16:38:38 No.20070724163838 削除

「あなた・・・重い」

 妻にのしかかったまま呆然となっていた私は、身体の下から聞こえてきた細い声でようやく理性を取り戻しました。
 慌てて妻から離れ、畳の上にぺたりと腰を下ろしました。
 妻はまだ身体が動かないのか、仰向けに横たわったまま手だけを動かして浴衣の裾を直しましたが、それだけの動きをするのも辛そうでした。
 ほとんど暴力まがいの交わりをしてしまったことに、私は自分自身でショックを受けていました。妻に何か言わなければいけない、と思いましたが、言うべき言葉を見つけられないでいるうちに、さらに数刻が過ぎました。

 窓の外はすでに暗闇が支配する夜の世界になっています。

 不意に、妻がゆっくりと身を起こしました。気まずそうに目を逸らしたまま起き上がった彼女の乱れ髪を見て、私もまた思わず目を逸らしてしまいました。
「瑞希・・・わるかった」
「いえ・・・・」
 ようやく言った私の声に、妻は浴衣の前を押さえながら短く答えました。そして立ち上がり、「ちょっとシャワーを浴びてきますね」と小さく告げて、そろそろとした足取りで備え付けのバスルームに消えていきました。
 私は深く息を吐き、窓の外に広がる闇をぼんやりと眺めました。
 しばらくして、妻が戻ってきました。シャワーを浴びたその顔色は、先ほどまでの蒼褪めたものに比べ、ずいぶんと血色が戻っています。
「もうお食事の時間になりますけど・・・あなたもシャワーを使いますか?」
「うん・・そうだね」
 緊張しているような声色の妻に答え、のっそりと私は立ち上がりました。

 宿の食事処で夕食を取る間もずっと、私と妻の間にはぎこちない空気が流れていました。
 本来なら楽しいはずの旅行を台無しにしてしまったこともそうですが、無理をして何もなかったように取り繕っている妻の姿が、私の胸を痛ませずにおきませんでした。

 食事を終え、席を立って部屋へ戻る途中、玄関に赤嶺が戻ってきたのが見えました。
「ちょっと用事を思い出した。瑞希は先に行っててくれ」
 妻にそう言うと、彼女は何か言いたげにちらりと私を見ましたが、結局「分かりました」とだけ答えて立ち去りました。
 私はため息をついて、赤嶺のもとへ歩み寄りました。

 夕食は外でとってきたという赤嶺に誘われ、私は彼の部屋へと足を運びました。
「まったく、どうしたんだ。そんなしみったれた顔をして」
 部屋に入るなりそう言って、赤嶺は窓際の椅子にどっかりと腰を下ろし、行儀悪く足を組みました。
「お前のせいだよ、全部」
 貰った煙草に火を点けながら、私は子供のように悪態をつきました。
「意味が分からんね。奥さんと喧嘩でもしたのか」
 単なる喧嘩なら、もっとずっとよかっただろうに―――私は心中でそんなふうに思います。
「お前はどうしてここに来たんだよ?」
 赤嶺の問いには答えず、私は若干の怒りをこめて先ほど抱いた疑問を彼にぶつけました。
「何言ってやがる。もとは俺の紹介した宿じゃねえか。―――それはともかく、理由はさっき説明しただろ。予定していた仕事が相手先の都合で延期されたからってやつ」
「とても信じられんね」
 私の感想を赤嶺はふんと鼻で哂い、それ以上否定も肯定もしませんでした。
「それはそれとしてお前こそ、俺に何の用なんだ? 何か話したいことがあって来たんじゃないのか?」
 私は先ほどあったことを赤嶺に語るべきか一瞬迷いましたが、決心がつかないまま、無言で煙草を吹かしました。語るも何も、自分自身ですら、わずか数刻前の出来事をまだ整理できずにいたのです。
 あの嵐のような昂りを―――
 赤嶺もまた何も語らず、手元のジッポをかちゃかちゃと弄びながら、悄然とした私の様子を観察するような目で見つめていました。
「なぁ」しばらくして、私はそんな赤嶺に言葉を投げました。「お前に聞きたいことがある」
 赤嶺はケースから取り出したピースを咥えつつ、続けろと言うように顎をしゃくりました。
「お前は―――瑞希のことをどう思っているんだ」
「前と変わってないよ。はっきり言って好みのタイプだね。さっき久々に見て、改めてそう思ったな」
 紫煙を吐きながら、赤嶺は目を細め、私を正面に見据えました。
 その唇が、歪んだ笑みを刻みました。

「それに―――抱き心地も良かったしな。あのときに出す声も良かった」

 あからさまに私をからかい、挑発する口ぶりで。

「奥さん、今でもあんなふうに啼くのか? ―――よぉ、どうなんだ。お前とするときにも、奥さんはあんなに乱れるのか? 聞きたいね」

 赤嶺はそんなことを言い、冷ややかな目で私を見つめました。

「もしそうだとしたら、お前も大変だね。普段はつんと澄ましていても身体の反応は娼婦顔負け、って女は実際いるもんだけど、奥さんもその類じゃないのか。よく言えば感受性豊か、わるく言えば淫乱ってとこだな」

 淫乱―――

「まぁ、俺はそういう女のほうが好きだけどな。人間、口では何とでも言えるけど、身体のほうは正直なものだからな。あの奥さんみたいに最初は抗えるだけ抗うけど、最後は結局、快楽に負けてぐずぐずに乱れてしまうってのも風情があっていいもんだ」

 まったく羨ましいよ、お前が―――

 最後に一言そう結んで、赤嶺は再び煙草を咥えました。その視線は逸らされることなく私をとらえ、きらきらとよく光る目は私を嘲弄しています。
 その目を、私はしばらく無言で睨み返しました。
 やがて、言いました。
「その手は―――食わない」
 赤嶺は煙草を吸いながら、眉だけ動かして私の言葉に反応しました。
「お前は昔から傍若無人に振る舞ってみせては、その裏で冷静に目の前の人間の反応を見ているタイプだった。そんなときこそ、ひとの本音ってやつが出るからな。その本音を聞きだして、お前は利用するんだ」
 赤嶺はふっと笑いました。
「昔からの友達に対して、ずいぶんとひどいことを言うんだな」
「お前が言うな」
「ふん。だいたい、これだけ付き合いが長いんだ。お前の本音なんて聞きだすまでもない」
 煙草を揉み消した赤嶺は、まるで舞台役者のように両手を広げて見せながら、ゆっくりと立ち上がりました。
「今さらどう取り繕っても無駄なことさ。一度起きたことは変えられないし、最初に望んだのは、そして誰よりも望んでいるのはお前なんだ」
「だから―――何が言いたいんだ」
 苛苛した口調で叫んだ私を、赤嶺は立ったまま壁に寄りかかり、冷ややかな目で見つめました。
「お前自身が一番よく分かっていることを俺に言わせるなよ」
「じゃあ、質問を変える。お前は何がしたいんだ? 本音で答えろ」
「―――俺がしたいこと、か。そりゃ決まってるだろ」
 赤嶺はあっさりと言いました。
「奥さんを抱きたい。もう一度」

卒業 8

BJ 7/26(木) 18:15:21 No.20070726181521 削除

「――――――」

 あまりにもあっさりと告げられた赤嶺の言葉に、私は一瞬絶句しました。
 幾ばくかの時間を置いて、ようやく私は気を取り直します。
「・・・お前、誰に向かってそんなことを言ってると思ってるんだ」
「お前だよ。お前しかこの場にいねえじゃねえか」
 平然と言って、赤嶺はまた煙草に火を点けました。
「言っておくけど、俺が話してるのはただの男としてのお前だ。一家の亭主としてのお前に対してじゃない」
 ふうっと紫煙を吐きながら、赤嶺は底の見えない瞳で私を見つめました。
 その唇が、動きました。

「お前は心の底では、奥さんが俺に抱かれるのをもう一度見たいと思っている」

 断定的に語る赤嶺の口調には、一切迷いというものがありませんでした。

「そして、俺は奥さんを抱きたい。お互いの利害は一致してるんだ。他に何の問題がある?」
「・・・瑞希本人の意思はどこへ行った? あいつはモノじゃないんだ。むしろ人一倍傷つきやすいし、今だって―――きっとひどく哀しんでる」
 言いながら、私の胸はずきりと痛みました。
「そして―――俺は瑞希の夫なんだ」
「偉そうに。そもそも最初に、奥さんをモノみたいに俺に抱かせようとしたのはお前だろうが」
「だからそれも・・・後悔してる」
「半分だけの後悔だろ。もう半分は獣みたいに欲情してるんだ。まあ、俺にはそっちのほうがよほど人間的に見えるがね」
 赤嶺の言葉のナイフは今度こそ私の真実を鋭く切り裂いて、私の言葉を奪いました。


「それに奥さんが哀しんでいようが、なんだろうが、そんなことは結局関係がないのさ」


 ―――独り言のような、その口調。


「そんなつまらないことは、すぐに忘れさせてやるよ」


 悪魔じみた色気を感じさせる目が、私を見下ろしていました。


「死ぬほど悦ばせてやる。変えてやるよ。奥さんをもっともっと別の、新しい女に」
「――――――」
「それはお前にとっても、奥さんにとってもいいことのはずさ」そう言って、最後に赤嶺は悪戯な笑みを浮かべました。「―――きっとね」


 赤嶺の部屋を出て、自室へ戻ったのは何時ごろのことだったでしょうか。
「―――瑞希?」
 姿の見えない妻に呼びかけると、隣の襖が開き、妻が姿を現しました。
「もう、寝ていたのか?」
「ごめんなさい。ちょっと気分がすぐれなくて」
「そうか・・・それなら、横になっていたほうがいい」
 私が言うと、妻は「いえ、もう大丈夫です」と言って、卓の傍に正座しました。
「お茶をいれましょうか? それともお酒・・・?」
「お茶でいいよ」答えて、私も妻の正面に腰掛けました。
 こぽこぽ、と急須に湯の注がれる音が、静かな部屋に響き渡ります。
 袖から伸びた妻の細い腕が湯飲みを手に取るのを見つめながら、私は何とはなしに息苦しい想いでいました。
「煙草を吸ってもいいかな?」
「ご自由に・・・」
 弱気な声で伺いを立てる私、妻はいつぞやのように咎めるでもなく、静かな声で答えて、茶の入った湯飲みを差し出しました。
 煙草と茶で私が一服している間、妻は無言で正座したまま、じっとしていました。細面の顔は、彼女が先ほど言ったとおりに気分がすぐれない様子で、鬢の毛がわずかにほつれて頬にかかっていました。
 そんな妻の様子を窺っているうちに、ふと妻は口が開くのが見えました。
「赤嶺さんと・・・お話されていたんですか?」
 努めて穏やかにしようとしている声の調子が、かえって妻の抱える不安の強さを感じさせました。
「―――うん」
 私は答えて、短くなった煙草を揉み消しました。
「それで・・・赤嶺さんはどうしてこちらへ・・・?」
「いや―――それはさっき赤嶺が自分で言ってた通り、仕事先の都合でたまたま休みが取れたから、というのが本当らしいけど」


 ―――奥さんを抱きたい。
 ―――もう一度。


「そうですか・・・」
 呟くように言い、妻は膝の上にそっと両手を重ねました。
 鶴のようにうなだれた様子で、じっと何かを考え込んでいるふうの妻。
 そんな悄然とした妻の姿を、見つめながら、私は。


 ―――抱き心地も良かったしな。
 ―――あのときに出す声もよかった。


 私の内側には。


 ―――奥さん、今でもあんなふうに啼くのか?
 ―――まったく羨ましいよ、お前が。


 あの―――声が、言葉が。


 ―――誰よりも望んでいるのはお前なんだ。


 耳鳴りのようにずっと響いていて。


 ―――死ぬほど悦ばせてやる。
 ―――変えてやるよ。


 変わる―――


「もう、私を偽ることだけはやめてくださいね」


 不意の妻の言葉に、私の意識は現実に引き戻されました。
「え? 何だって」
 妻はすっと背筋を伸ばし、私のほうを向いていました。
「去年のような想いは、繰り返したくないんです」
 私を見つめる、澄みきった瞳。
「二度とあんな隠し事はしないで」
 その瞳がゆっくりと潤んでいくのが、私の目に映りました。
「私はこのままでいい。このままがいいんです」
 私は無意識に妻の名前を呼んでいましたが、その声は小さすぎて彼女には届かなかったようです。
「どうして・・・駄目なんですか。このまま二人で静かに暮らしていけたら、それだけで十分なのに」
 妻の声の調子は変わらず穏やかなままなのに、この目に映る妻の身体は次第に小さく、かすかになっていくようでした。私は咄嗟に卓を脇にどけ、膝で這って妻のもとへ行きました。

「すまない、瑞希。本当に」

 妻の肩を抱き、無意識に口に出した私の謝罪―――
 あの瞬間に告げたその言葉がなぜ、すまなかった、ではなく、すまない、だったのか、後々になっても、私は考えずにいられませんでした。

 この時点でその意味を正確に感じ取っていたのは、おそらく妻一人だったのでしょう。
 だからあのとき、肩を抱く私を振り返って、彼女は言ったのです。


「やっぱり―――私だけでは駄目なんですね」


 囁くようにそう言って―――妻は泣きながら微笑みました。
 消え入りそうな囁きの、その意味が分からないままに、しかし私は言葉を失いました。

 月の綺麗な、静かすぎる夜のことでした。

卒業 9

BJ 7/30(月) 02:09:29 No.20070730020929 削除

 翌朝―――
 目覚めると、隣の布団に妻の姿はなく、私はのっそりと起き上がって時計を見ました。時刻はまだ八時、よしまだ寝れるなと思い、再び布団に入ろうとしたところ、がらっと襖が開いて、妻が顔を出しました。
「駄目ですよ。お食事の時間は9時までと決まってるんですから」
 そう釘を刺す妻の表情は普段と変わらず、私はほっとする想いでした。
「分かった、起きる起きる」
 あくびをしながら立ち上がり、乱れた浴衣をいい加減に直して、私は布団の敷かれた座敷を出ました。

「今日もよく晴れているな」
 妻が腰掛けている窓際の、その向こうに見える海と空は、昨日と変わらず晴れ晴れとしていました。何だか、皮肉に感じるほどに。
「これなら海で泳げますね」
 そう言った妻の声に、私は驚いて振り返りました。
「あれ、泳ぐつもりなの」
「あなたが言い出したことじゃありませんか」
「でも、昨日は厭そうに見えた」
「・・・そんなことありませんよ」
 妻は淡々と言って、立ち上がりました。
「せっかく旅行に来ているんだし・・・・せっかくの夏なんですから」

 宿から一歩外へ出ると、そこは真夏そのもので、暑い日差しが肌に突き刺さってくるようでした。妻は昨日と同じように、宿で日傘を借りました。
 天橋立の海水浴場へ向かう道の途中にある小さな店で、私たちは水着とパラソル、ビニールシートなどを買いました。
「おとなしい水着だな。ビキニにすればいいのに」
 妻が選んだ薄青のワンピースの水着を見てそんな感想を述べた私をかるく睨んで、「あれは若い子が着るものです」と妻は言いました。

 店を出て、私たちは昨日歩いた道をもう一度辿りました。
 なんだか夢の中にいるような、妙な心持ちでした。
 日常から離れたこの場所で、昨日から立て続けに起こった非日常的な出来事。そのすべてが、次第にぼんやりと霞んでいくようでした。
 一番妙なのが、私の傍らに今も歩いている妻でした。いつもは引っ込み思案の妻が、今日は自分から私を誘い、海で泳ごうと言い出したのです。その落ち着いた表情に昨夜の涙の名残はなく、あれは本当にあったことなのだろうか、と私を疑わせずにおかないのでした。
「泳ぐのなんて何年ぶりかしら」
 日傘を手に歩く妻が言いました。
「瑞希は泳ぎが得意なのか?」
「どう見えます?」
 珍しく悪戯っぽい表情で、妻は聞き返しました。
「正直言って、得意そうには見えない」
「あら、ひどい。こう見えて、運動神経はいいほうなんですよ」
「そうか。知らなかったな。夫婦でも、まだまだお互いに知らないことってあるんだな」
「これまで、あまり二人で遠くへ出歩いたりする機会、ありませんでしたから」
「そうだね。これからはどんどん行こう。色んなところに遊びに行こう」
 何気なく言った私の言葉でしたが、なぜかそのとき妻は一瞬真顔になり、そしてすぐに微笑を浮かべました。
「そう・・・ですね」

 天橋立の海は、日本海にしては珍しく青く澄んでいました。
 昨日もたいそう混んでいましたが、今日も白い砂浜の上には若い人たちや家族連れの姿で溢れています。
 水着に着替えた私たちは、胸いっぱいに潮の香りを吸い込みつつ、灼けつくような砂浜を踏みしめて、久しぶりの海へ入りました。
 妻は先ほど自分で言ったとおりなかなか水泳が上手く、すいすいと泳ぎ進んでは、しばらく行くと、立ち止まって私を振り返ります。それに笑顔で応えて、私は平泳ぎでゆっくり彼女を追いかけました。
 ばしゃばしゃと不器用に水をかく度に、波の飛沫が跳ね、日差しに透けてきらきらと光ります。
 それは夢のように美しい夏の光景でした。周囲の人々の明るい表情には不安の翳もなく、一時の解放に跳ね回る子馬のように、波と戯れたり、恋人とじゃれあっては、各々の時間を過ごしていました。
 楽しい夏。人が変わったようにはしゃいで見せる妻。水に濡れた肢体は、太陽の日差しを受けて眩しいほどに輝いていました。
 けれども―――

『又じき冬になるよ』

 私の脳裏に浮かぶ、あの台詞。
 あれはそう、たしか『門』の最後で宗助が呟いた―――

「おーい、あんまり沖のほうへ行くと危ない。もう戻ろう」
 ひとしきり泳いだ後、私は妻に声をかけて、先に立てておいたパラソルの場所に戻りました。

卒業 10

BJ 7/30(月) 19:30:20 No.20070730193020 削除

「久しぶりに泳ぐと、やっぱり相当疲れるね」 
 パラソルの影のもと、シートの上に座った私は、濡れた脛に付着した砂粒をざらざらと手で払い落としながら、ため息まじりにぼやきました。
「もう年だな」
「普段、あんまり運動なさらないから」
「そう。たしかにしない。駅への行き帰りの道を歩くくらい。でも日本のサラリーマンの電車通勤というのは、あれはあれで相当しんどいものだよ」
 わけの分からない言い訳をする私に、「そんなものですか」と相槌を返しながら、妻は両腕を前に伸ばして表に裏に眺めています。
「どうした?」
「いえ、これは日焼けしてしまいそうだと思って」
「当然だよ。夏に海で泳いだら焼ける。瑞希も少しくらいは日に焼けたほうがいい。健康的になる」
「まるで、普段の私が病人みたいな仰りようですね」
「そんなことは言っていない」
 そこで妻は唐突に黙りました。
「何? どうかした?」
「いえ・・・実は私、病気、というわけではないんですけど・・・」
「どこか身体の具合でも悪いのか?」
「そうじゃなくて・・・・」
 奥歯にものの挟まった言い方をする妻に、私はいっそう心配になりました。
「焦らせないでくれよ。何なんだい」
「実は・・・・先月から、月のものが・・・」
 晴天の霹靂、とはこのことであり、呆気に取られた、とはまさに今の私の表情そのものであったことでしょう。
「―――ちょっと待ってくれ。それは本当なのか」
「嘘です」
 がっくりと力が抜けました。妻は申し訳なさそうな表情で、「ごめんなさい」と言いました。
「ちょっと冗談を言ってみたくなって」
「瑞希が冗談を言うのを初めて聞いた。いやいや、そうじゃなくて、何も最初のジョークをそんなたちの悪いものにすることはないだろう。それにしても、どうしたんだ? 今日の瑞希はどこかおかしいぜ」
 私の台詞に、妻は一瞬不思議な表情で私を見た後、にこっと笑いました。
「そう、おかしいんです。今日の私は」
「・・・どうして?」
 私の質問には答えず、妻は吹きつける潮風に向かって瞳を閉じました。
「―――でも」やがてぽつりと妻は言いました。「さっきの冗談が本当だったら良かったのに」
「子供が・・・欲しいの? でも、今まで一度もそんなこと」
「そうじゃないんです」妻は笑って首を振りました。「そうじゃないの」
 何が「そうじゃない」のか私には分かりませんでしたが、妻の様子が明らかに普段と違うことだけは分かりました。
 そして、彼女が普段と違っているその原因なら、分かりきっています。
 だから―――私は何かを言わなければならないはずでした。

 けれども、そのとき―――

「相変わらず仲が良いことで、羨ましいね」
 背後から聞きなれた声がして、振り返ると水着姿の赤嶺が立っていました。
「独り者の俺には目の毒だな」
「お前、いつから、そこに」
「ここには朝から来ていた。お前と奥さんの姿を見つけたのはついさっきだけどね」
 体格の良い赤嶺の浅黒い身体は、夏の陽を受けてつやつやと光っています。
 赤嶺は「奥さん」のほうに向き直りました。
「よくお似合いですよ、その水着」
 日に焼けた顔がふっと笑み、そこだけ白い歯が見えました。
 赤嶺の登場した瞬間から、妻は浮かべていた微笑を消し、きゅっと唇を閉じ合わせていましたが、昨日のように黙りこんだりはしないで、「ありがとうございます」と小さく言葉を返しました。
 赤嶺は苦笑するような表情を見せつつ、ずかずかと私たちのパラソルに入ってきて、シートに腰を下ろしました。
「お前、一人で海に来て淋しくないか?」
 図々しい男に復讐する気持ちで悪態をつくと、赤嶺は涼しい顔で「せっかくたまの休日にゆっくりしに来てるんだぜ。そんなことかまってられるかよ」と言い、私を見つめました。
 微笑んだままの、その唇が動きました。
「―――なんたって俺は、楽しむためにここに来ているんだからな」
 私は赤嶺から視線を外しました。
 ひどく、喉の渇く心地がしていました。

卒業 11

BJ 7/31(火) 17:26:50 No.20070731172650 削除

 それっきり赤嶺は黙り込み、私も妻も言葉を発しなかったので、三人は海に向かって並んで座したまま、しばし不思議な時間を過ごしました。

 私の左には妻が。
 そして私の右には、妻を抱きたいと言う男、かつて妻を抱いた男が座っていました。

 それはシュールで、滑稽で、不自然極まりない光景でした。ただこうしてじっとしているだけで、私の肌は汗ばみ、心臓の鼓動はじわじわと早まっていくようでした。
 目の前に広がる砂浜と海は相変わらず平和そのもので、人々の笑いさざめく声がそこかしこに響いています。
 夏、でした。
 そして私にとっての、夏の記憶は―――
 
 ふと、赤嶺が立ち上がりました。
「お前、もう泳がないの?」
 海パンの尻を手で払いながら赤嶺の言う声に、「俺はもういい。さっき十分泳いだ」と答えると、
「ちっ。やだねえ、これだからロートルは」
 同い年のはずの赤嶺は言い、次に妻を見ました。
「奥さんはまだ若いから大丈夫でしょ。泳ぎにいきましょう」
「私は―――」
 妻は私を見ました。先ほどまで奇妙にはしゃいで見えた妻も、赤嶺が現れてからは、普段の気弱な調子に戻ってしまったようでした。
「いちいち旦那の許可を取る必要はありません。江戸時代じゃないんだから」
 そう言って、赤嶺は不意に妻の腕を取りました。妻は驚き、腕を引こうとしましたが、赤嶺の手がそれを許しませんでした。
「さ、行きましょ」
 妻はもう一度私を振り返りました。
 その顔を見つめるうちに―――
 何かが、私の中で、ゆっくりと動きました。

 私は―――妻にうなずいて見せました。

 その瞬間、妻の唇から吐息が洩れたのが聞こえました。赤嶺に引っ張られるようにして、妻は立ち上がりました。彼女の全身から力が抜けてしまったようでした。
 赤嶺に手を引かれながら、渚へと歩んでいく妻の背中。その真っ白な背肌と肩幅の広い赤嶺の朝黒い背中が、不思議なほど好一対に見えました。

 白と黒。
 柔と剛。
 軟と硬。

 その二つの身体が絡み合い、一つに繋がったあの夜が。
 決して忘れることの出来なかったあの記憶が。

 私の脳裏で、ふたたび、黒い炎のように揺らめいていました。

 その熱はちりちりと臓腑を焦がし、心を灰片に変えていくというのに―――
 危うい炎からどうしても逃れられない私は、夏の夜に舞う蛾のようなものです。

 火の中へ、火の中へ。
 その誘惑が―――


 ―――変えてやるよ。


 誘惑―――

 そして今―――渚に立つ妻と赤嶺の後ろ姿。
 あの夜、白い肢体を抱き締め、思うままにしならせた赤嶺の太い腕が伸びて、妻の撫で肩に触れるのが見えました。

 私は息を吐きました。長く、長く。妻は顔をうつむけ、赤嶺にやんわりと肩を抱かれたまま、ゆっくりと海に入っていきます。
 太陽は中天からわずかに傾き、二人の影は私のいる砂浜へ向かって伸びていました。


「もう、戻るのか?」
 夕刻の気配が漂う前にパラソルを畳み出した私に、赤嶺が声をかけました。妻はビニールシートにぺたりと腰を下ろし、ぼんやりと海を眺めていました。
「ああ。お前は?」
「俺はもう少し泳いでいく」
「元気だね、お前も」
「まあな。どっかの年寄りとは違うさ」赤嶺はそんなふうに憎まれ口を叩き、また海に向かって歩きかけ、数歩も行かないうちに振り返りました。
「お前と奥さんが泊まってるのって萩の間だよな?」
「・・・そうだけど」
「今夜、遊びに行くわ」
 いつものようにあっさりと告げ―――
 返事も待たずに赤嶺はさっさと歩き去っていきました。
 私はしばしの間、その小さくなっていく背中を眺めました。
 振り返ると、妻は立ち上がって私を見ていました。私はその視線から目を逸らし、何事もなかったように無言でパラソルを畳み終え、立ち尽くしている妻の裸の肩をぽんと叩いて、「行こう」と言いました。
 かすかな潮風が、妻の濡れた黒髪を静かになびかせていました。

卒業 12

BJ 8/2(木) 03:25:12 No.20070802032512 削除

 窓際に立って、私は外を眺めました。
 夕刻から振り出した雨は、夜になった今もいっこうにその勢いを弱めず、窓の向こうに見える暗い海に、斜めに降りそそいでいました。いつの間にか風も出てきたようで、朝、眺めたときと比べて波も高くなっています。
「さっきまであんなに綺麗だったのにな」
 無意識に呟いた私の声に、背後の妻が振り返ったのが分かりました。
「何でもない。外の話だよ」
 言いながら私は動いて、妻の横の畳に座りました。妻はリモコンを取り上げ、テレビを切りました。
「切らなくてもいいのに」
 黙ったまま、妻は首を振りました。その視線は私ではなく、卓の上を向いたままです。
 ぴっと伸ばしたままの妻の小さな背が、そのときの私の目には張りつめた弓のように見えました。
 私は腕を伸ばして、妻の肩を抱き寄せました。肩に手が触れた瞬間、妻がほうっとため息をついたのが聞こえました。

 互いの鼓動が聞こえる距離で、しばし私たちは無言で触れ合いました。

「何だか怖いみたい」
 ぽつり、と妻が言いました。
「何のこと?」
「・・・外の話」
 妻は言い、私の浴衣の襟をぎゅっと掴みました。
 その掌が震えていました。
「今日の瑞希はやっぱり変だ」
 囁きながら、私はその妻の手に自分の手を重ねました。
「妙にはしゃいだり、怖がったり、大忙しじゃないか」
 妻はじっとしたまま私の手の愛撫を受け、私の言葉には答えませんでした。

 本当はもう、分かっていたのです。
 昼間、妻がはしゃいでみせたのも、今こうして震えているのも、すべて同じ感情の動きから来ているのだということに。
 それを分かりながら、分からないふりをして、表面上だけ優しい言葉を吐いてみせる自らの心の残酷さに慄然としながら、私は妻の小さな身体の温かみを胸に感じていました。

 胸に感じる温かさと胸の奥の冷えきったものが、そのときの私の世界のすべてでした。

 永遠に混じりあうことのない、その二つのものが―――
 
「もしも―――」
 不意に、妻が口を開きました。
「もしも・・・?」
 鸚鵡返しで聞き返しましたが、妻はそれきり黙ってしまいました。
 もう一度、何を言おうとしたのか妻に聞こうとして、私が口を開きかけたとき―――

 こん、こん、と。
 ノックの音がしました。

卒業 13

BJ 8/4(土) 23:12:42 No.20070804231242 削除

「いや、参った参った。あの後、海でもうひと泳ぎしてから、松並木の道を府中側まで歩いてみたのさ。昨日は途中で引き返したからな。でも向こうに着いたところで雨が降ってきて、こっち側に戻ってくる船も出なくなるし、散々だった」
 赤嶺は言いながら私たちの部屋に入ってきて、手に提げていたスーパーの袋をどさっと卓の上に置きました。
「今晩は、奥さん」
「今晩は」
 赤嶺が入ってきた瞬間から、妻は先ほどまでの何かに怯えた表情を消していました。いつものように落ち着いた物腰で、赤嶺に会釈しました。
 私は胸の動悸を感じながら、そんな二人を見ていました。

「しかし、あの天橋立ってのは、本当に不思議な地形だよな。自分の目で見て改めて思ったけどね」
 何本目かの缶ビールをぷしゅっと音を立てて開けながら、赤嶺は言いました。
「津波なんか来たら一発で押し流されてしまいそうに思えるけど、もう何千年もあの海に浮かんでるんだとさ。さっき雨宿りしてたとき、気まぐれに読んだパンフレットに書いてあった」
「そんなに前からあるのか」
 赤嶺の持ってきた小型の蟹を揚げたものをつまみながら、私はいいかげんな相槌を打ちました。妻はといえば、私たちに付き合って最初少し酒を口にした後は、静かに座ったまま、私と赤嶺の益体もない話に耳を傾けていました。
「なんせ、古事記にも出てるらしいからな。あのイザナギ・イザナミが出てくる国つくりの最初のくだりで、二人が立っているのが天の浮橋、つまり現在の天橋立という説があるそうだ」
「後付けくさいな。まあ、あの砂洲が何千年も前からあったのなら、古事記に出てきても不思議じゃないんだろうけど。ところで、イザナギ・イザナミって何だっけ?」
「聞いたことはあるだろ。日本神話で最初の神様のカップルだよ。その二人の神様が交わって、日本の国を文字通り生み出していくのさ」
「ああ、あの、柱の周囲を回って声を掛け合うやつか」
「そう。最初は女神のイザナミが、次に男神のイザナギが誘って、二人は結ばれる。そもそもイザナギ・イザナミのイザナは『誘う』という意味の『いざなう』が語源らしいね」
「子供の頃にセックスのくだりだけをぼかした絵本かなんかでその場面を見たよ」
「ぼかす必要もないくらい、おおらかな神話だけどな。日本はもともと農耕民族の国だから、セックスに対する忌避感が低かったんだ。つまらない倫理観にとらわれてないだけ、今の人間よりずっと伸び伸びしたセックスをしてたんじゃないか」
 私は傍らで聞いている妻の耳が気になりました。
「伸び伸びしたセックスってなんだよ。もういい、話を変えようぜ。お前と話しているとすぐにそっちの方向に話が流れていく」
「俺ばっかりのせいにするな。お前だって学生時代はこの手の話ばっかりしてたじゃないか。第一、奥さんだって子供じゃないんだ。気にしないさ。それに―――」
 赤嶺は微笑しました。

「ここにいる三人は、もうそんな間柄じゃないだろ」

 その言葉に、視界の隅で妻の身体がわずかに揺れたのが見えました。私は私で言葉に詰まり、気の利いたことを何も口に出来ないまま、気まずい沈黙がうまれました。赤嶺一人が平気な顔で酒盃を啜り、煙草を吹かしていました。

 その後一時間ほど、さらに数本のビールを空にした後で、赤嶺は立ち上がり、「そろそろ自室に戻る」と言いました。
「どうもお邪魔してすみませんでした、奥さん」
「いえ、そんな・・・・」
 珍しく殊勝にそんなことを言う赤嶺に、妻は小さく言葉を返して自分も立ち上がりました。私も立ち上がって戸口まで歩き、赤嶺を見送りました。
「じゃあな」
 戸を閉める瞬間に赤嶺は言い、私を見て、片目を瞑ってみせました。
「おやすみ」
 私は静かに言葉を返しました。


 窓の外に目をやると、いつの間に雨は勢いを弱め、夜の闇の中、粛々と海へ降りそそいでいました。

 なんだか―――妙な心地でした。

 私が、そしておそらくは妻も予感していたような事態にはならず、今こうして何事もなく赤嶺が去り―――
 妻はどことなくほっとした表情で後片付けを始め、それを眺める私の胸にも、確かに安堵の色があるのに―――

 それなのに―――

「あら」

 突然、妻が声をあげました。
「どうした?」
「これ、赤嶺さんのものですよね」
 そう言って妻が掲げて見せたのは、たしかに見覚えのある赤嶺の携帯でした。
「忘れていかれたのかしら」

 そのようだね、と答えようとして―――
 しかし、私の頭は別のことを考えていました。

「わざと・・・忘れていったんじゃないかな」

 呟いた声に、妻が振り返りました。
「どういう意味ですか・・・?」
 かすれた、その声。
「それは―――」

 それは、つまり―――

 赤嶺の―――いざない。
 
 男から女への。
 いや、この場合はおそらく、彼から私へ向けて放たれた―――

 誘う―――言葉。

「瑞希」

 砂のように渇いた声が。
 ひとりでに言葉を紡いでいました。
「はい」
「届けてやってくれないか、それ。赤嶺の部屋に」

卒業 14

BJ 8/5(日) 04:17:42 No.20070805041742 削除

 そのときの妻の表情を、私は一生忘れられないでしょう。

 妻は一瞬にして私の言葉の意味を悟ったようでした。
 見開かれた切れ長の目、その黒々とした瞳に薄い皮膜のような微光が揺らめき、ふっくらとした唇はかすかにわなないて、形の良い小ぶりの歯が覗きました。
 胸のつぶれるような想いで、私はそんな妻を見つめていました。目を逸らすことは出来そうにありませんでした。
 妻もまた視線を外すことなく私を見つめていました。
 そのまま、時間は静かに過ぎ去りました。やがて、蒼く透けるようだった頬に少しづつ生気が戻り、ぼやけた瞳の輪郭がくっきりとしてきた頃、妻は口を開きました。
「ずっと、考えていたんです―――」
 妻の声のトーンはいつもと同じようにしっとりと落ち着いていましたが、あらゆる感情が麻痺してしまったような無色透明の響きでした。
 不意に吹きつけたらしい風に、窓が鳴りました。
「去年の夏に・・・あのときに、もしも私が選ばなかったら―――赤嶺さんに抱かれることを私が選ばなかったなら、結果は違っていたんでしょうか」
 その言葉はたしかに私に向けられているはずなのに、独り言のように私の耳には聞こえました。
「違う。そうじゃない・・・そうじゃないんだ」
 答える私の言葉も、まるで独り言のようでした。
 妻は立ち上がりました。
 私は視線を上げられずに、妻の浴衣の裾が揺れる様を見ていました。

 妻はそれきり言葉を発しないまま、音を立てずに部屋を出て行きました。

 しばらくの後―――
 止まっていた呼吸をゆっくり取り戻して、私はがくりと襖に背を預けました。
 頭の芯が痺れてしまったようで、手指の一本すらも満足に曲げられないほどの消耗が私の身体の隅々まで行き渡っていました。
 照明の光で満たされた部屋にいながら、窓の外に広がる暗い闇のほうがずっと深く感じ取れるようで、降り続く雨までもこの部屋に入り込み、ぼやぼやと私の輪郭を滲ませていくようでした。
 私は手元の鞄から煙草を取り出しました。火を点ける途中に、そうか、今は禁煙中だったな、とぼんやり思いました。痺れた脳に怒る妻の顔が浮かび、そのことが妻の不在を感じさせ、最後に私の脳は赤嶺とともにいる妻の姿を思い描きました。

 横たわっている、妻の白くなめらかな裸身。
 その身体に覆いかぶさっていく、赤嶺の身体―――

 私は立ち上がらなければならなかった。立ち上がって、歩いて、赤嶺の部屋まで行かなければ、妻にあんな想いをさせたその犠牲のすべてを無駄にすることになります。
 しかし現実の私は、こうして煙草に火を点けるだけで精一杯でした。
 やがて、その煙草も灰になりました。
 私は襖に背を預けたまま、明るくて暗いこのがらんとした部屋の一部になりました。
 瞼の裏に、様々な表情の妻の幻影が揺らめいていました。

 どれだけの時間、そうして過ごしていたのでしょうか。

 不意に、物音がしてそのほうを向くと、妻が戸を開いて部屋に入ってくるところでした。

 妻の姿を目にしてもなお、私はまだ幻影の続きを見ているような気持ちでした。


 ―――それくらい、妻の姿はいつもと違っていたのです。


 しなやかに着こなした浴衣に乱れはなく、緩い曲線を描く髪も出て行ったときと同じように後ろで一本にくくられているのに。
 先ほどまで蒼褪めていた妻の顔は朱に染まり、瞳は潤沢にうるんでいて、足取りは酔ったようにふらついていました。
 気がつかないうちに、私は立ち上がっていました。
 定まらない足取りのまま、妻はまっすぐ私のほうに向かってきましたが、その視界は私の存在を捉えていませんでした。私は怯えに似たものすら感じながら、妻に近寄り、その肢体を抱きしめました。妻は一瞬小さく声を上げ、探るような手つきで私の背を触った後で、今度は力いっぱい私にすがりついてきました。
 息を呑む想いで私はその火照った肌に触れ、いつもより豊かに張っている肉の感触に妻でありながら妻でないものを抱いているような心地を感じながら、そのまま引きずられるようにして彼方へ飛び去っていきました。

卒業 15

BJ 8/6(月) 03:52:43 No.20070806035243 削除

 窓から差し込む陽光で、私は目覚めました。

 傍らに目をやると、妻の姿はありません。布団に手をあててみても、そこに感じられるはずの人肌の温もりはすでに絶えていました。
 私は起き上がりました。
 身体の節々が、痛んでいました。
 昨夜の自分。そして昨夜の妻。そのすべての記憶が蘇り、私は無意識に胸の辺りを手で押さえました。
 眩しいほどの日の光が、昨夜ここで繰り返された私の罪を現実の絵に変えていました。

「瑞希?」
 名を呼びながら襖を開けましたが、そこに妻の姿はなく、私の呼びかけに答える声もありません。
 時計を眺めると、時刻はまだ早朝です。あれからまだ数時間しか経過していない、その事実に私は今さらながら慄然としました。
 そして、これから、私たち夫婦にのしかかってくるはずの時間の重さにも。
 私は窓際の椅子にどさっと身体を預けました。
 窓の外に広がる海は、昨日の夜とうってかわって晴れわたり、眩しく輝いています。
 澄みきった空には、雲のひとかけらもありませんでした。
 私はまたも煙草に手を伸ばし、火を点ける前に、いや、こんなことをしている場合ではない、と思いなおしました。
 妻を―――探しに行かなければ。
 それが今の私のしなければならない責務でした。
 そうしなければ、私は―――

 煙草の箱を投げ捨て、立ち上がったとき、ノックの音がしました。
 この部屋にノックをして入ってくる人物は妻ではありえません。
 妻でないとすれば、それは―――
「入れよ。鍵はかかってない」
 戸の向こうに声をかけました。
 すっと戸が開いて、浴衣姿の赤嶺が姿を現しました。
「よう。いい朝だな」
 眠そうに欠伸をしながら、赤嶺は咥え煙草のままで器用にそんなことを言いました。
 昨夜―――妻を抱いた男。
 その男を前にして、私はどんな感情をこめて彼の顔を見ればいいのか分かりませんでした。自然、私は伏目がちになりました。
「朝からなんて顔してんだよ。お日さんが驚いて空から落っこちるぜ」
 そんな私を見て赤嶺はけたけたと遠慮なく笑い、宙に向かって紫煙を吐きました。
「いつどんなときでも変わらないお前が羨ましいよ」
「変わってるさ。昨日はすんでのところでお預けをくらったんでな。がっかりして一晩眠れなかった。おかげで寝不足だぜ」
 何気ない口調で赤嶺が言うのに、私の耳が反応しました。
「―――お預け、って何のことだ?」
 ゆっくりした動作で煙草を灰皿に捨てて、それから赤嶺は興味深そうに私を見やりました。
「そっか。奥さん、言わなかったのか」
「・・・・・・・」
「昨日、たしかに奥さんは俺の部屋にやってきたよ」畳の上にどっかり腰を下ろしながら、赤嶺は言いました。「でも最後まではいかなかった。つまり寸止め。俺にとっては最悪」
「どうして・・・・?」
「どうしてって言うなら、お前こそなんで来なかったんだ? 奥さんが俺に抱かれるところをもう一度見たくて、奥さんを俺のところに寄越したんだろうに」
「・・・・そうだよ」どんなに認めたくなくても、認めざるをえない事実でした。「そのとおりだ」
「だったらなんで来なかった」
 私は一瞬言おうかどうか迷いましたが、もはや隠しごとをする相手でもないだろうと思いました。
「・・・ショックで腰が抜けたようになってた。動こうにも動けなかった」
「なんだよ、それ。お前が自分で奥さんを寄越したんだろ」
「それがショックだったんだよ。懲りないでお前の誘惑にのってしまった自分と、瑞希に対してああも残酷な態度をとれる自分がね」
「全然わけが分からん」
「お前には一生分からないだろうよ」
 そう言いながら私は考えていました。本当におかしいのは目の前にいるこの男なのか、それとも私のほうなのか―――
「どっちみち、お前がそんな踏ん切りのつかない態度だからこそ、奥さんも余計混乱したんだろうよ。せっかくいいところまでいってたのに、突然泣き出して、これ以上はどうしても駄目だ、駄目だと喚くのさ。そういう普通の女みたいな取り乱し方をしないのが、奥さんのいいところだと思ってたんだけどな」

 ―――どうしても駄目。

 ―――まだ、決心がつかないんです。

 ―――きちんと覚悟が出来るまで、許してください。

 昨晩、妻が赤嶺に告げたというその言葉。
 妻の意識の中では、おそらく、私に向かって告げられていたのであろうその言葉。

 私は―――深いため息をついて、右手で額を押さえました。

「またそんな死人みたいな顔しやがって。いいかげん辛気くさいぜ。それにどのみち賽は投げられたんだ。昨日の晩、お前が選択した時点で」
「今なら戻ることが出来るんじゃないのか? 何もかも元通りってわけにはいかなくても」
「お前が本当にそれを望むならな」
 赤嶺はきらりと光る目で、覗き込むように私を見つめました。
「どうだったんだ? 昨夜、お前は帰ってきた奥さんを見て、俺に抱かれてきたと思い込んでいたんだろう? そのときお前はどんな気持ちだったんだ? 普段じゃありえないくらいに昂ったんじゃないのか?」
「それは―――」

 それはそのとおりでした。しかし、昂っていたのは、私だけではなかったのです。
 妻は―――その数刻前まで赤嶺に肌身を嬲らせていた妻は、決心がつかないと泣いて戻ってきた妻は、あのときたしかに情を昂らせていたのです。
 その姿は見たこともないほど妖美で。
 ぞっとするほどに艶めいていて。
 狂おしいようなあの姿は、目の前にいるこの男の手になるものだったのか。
 それとも―――妻が身中深くに秘めているもうひとつの貌なのか。
 もしそうだとしても、私には彼女のそんな別の表情を引き出すことは出来ないでしょう。
 私の前では妻はあくまで妻であり続けるでしょう。
 彼女がそれを望むから。

 けれど―――
 けれども私は―――

「奥さんは素質があるよ」
 私の心中の動きを読み取ったように、赤嶺はぽんと言いました。
「女としての素質がね。その気になれば誰よりも歓びを得られるし、誰よりも美しく変わっていける。あれほどの素質は千人に一人さ。本人は気づいていないかもしれないけど、女の専門家が言うんだから間違いない」
 赤嶺はにっと笑って、頭の後ろで両手を組みました。
「あとは奥さんも言ってたように、覚悟次第だろ。でもそれは奥さんの問題というより、お前の問題だな」

 この男は―――
 いざなう者だ。
 今も昔も。
 適当な言葉を吐いているように振る舞いながら、その実、すべてをその手に握りしめて。
 掌の上でひとをよろこばせ―――
 苦しませ―――
 導いていく。

「お前がいなかったら、俺はもっとずっと静かに生きていけたのにな」
 ぽつりと呟くように、私は言いました。
「静かで平凡な暮らしなんて、何が面白いんだ」
 片方の眉を吊り上げながら、赤嶺は侮蔑するように私を見ました。
「瑞希はそれを望んでいたよ。守ろうとしていたよ。この一年ずっと、そんな静かな暮らしを」

 ―――私はこのままでいい。このままがいいんです。
 ―――どうして・・・駄目なんですか。

「でも、お前はそんな暮らしで満足できる奴じゃない。それだけのことだ。お前と俺は昔から同じ側の人間なんだ」
 赤嶺はそこで言葉を切り、改めて私を見ました。
「決心はついたんだな?」
 私は―――
 うなずきました。
「それなら結構」
 冗談めかしたように言って、赤嶺はひょいっと立ち上がりました。
「どこへ行く?」
「奥さんを探してくる。朝、俺の部屋から宿を出て行く奥さんの姿が見えた。浴衣のままだったから、そう遠くへは行っていないはずだ」
 赤嶺は歩き、戸口の前で振り返らずに言いました。

「大丈夫、奥さんもすぐに覚えるさ」

 何を―――と聞く前に、扉は閉じられていました。

卒業 16

BJ 8/6(月) 18:41:31 No.20070806184131 削除

 赤嶺に連れられて妻が戻ってきたのは、それから一時間も経った頃でした。

 昨夜見た浴衣姿のままの妻は、赤嶺の後ろから伏目がちに、けれどもしっかりした足取りで部屋に入ってきました。すでに外の気温は相当高かっただろうに、妻はその首筋に汗ひとつかいていませんでした。
「どこに・・・行ってたんだ?」
 なんと言葉をかけていいものか迷った私は、そんなどうでもいいことをまず口にしました。
「近くの公園だよ。ここらで早朝に時間をつぶせる場所なんて、あそこくらいしかないからな。すぐに見つけられたよ」
 妻ではなく赤嶺が答えました。そして赤嶺は私を見、それから、ちらりと妻を見ました。
「お前の気持ちは奥さんに伝えておいた」
「――――――」
「奥さんも納得してくれたよ」

 赤嶺がそう告げた瞬間―――
 折れてしまいそうなほど細い頸がかすかに揺れ、うつむいた妻の額に髪が一筋はらりと落ちるのが見えました。
 握りしめた私の掌に、じっとりと汗が滲みました。

「そういうことだから―――また今夜」
 私たちの間に漂う危うい緊張感をものともせず、赤嶺は平然と言葉を続け―――

 ―――不意に。

 左手を伸ばして、赤嶺は妻の顎をつかまえました。

 驚いた妻は身を離そうとしましたが、そんな抵抗などないもののように赤嶺は動き、妻の唇に唇を重ねました。

 刹那の仕業。

 口づけされている間も、妻はしばらく赤嶺から逃れようと細腕で厚い胸板を押していましたが、やがてその腕は力を失い、だらりと垂れ下がりました。
 たおやかな腰を赤嶺の太い腕ががっしりと抱え、ずり上がった浴衣の裾から白い脛が覗きました。

 瞳に焼き付くような、その脛の生々しい白さ―――
 まるで見てはいけないようなものを見てしまったような、そんな気分を起こさせるほどに。
 それは強烈な―――
 酩酊感。
 
 赤嶺に口づけされている間ずっと、地面から離れた妻の踵は引き攣れるような動きを繰り返していました。
 哀しげにさえ見える、その動きの儚さ。
 呆然と立ち尽くしたまま、私はすべてを見つめていました。

 しばらくして、ようやく赤嶺は妻の顔から顔を離しました。

 一瞬、眉間に皺を寄せて苦しそうな表情になった後―――
 ふらり、と崩折れるように、妻はその場にしゃがみこみました。

「赤嶺・・・・」
「契約の手付けのようなものだよ」
 むしろ冷静な口調で言って、赤嶺は身を翻しました。
「じゃあまた、今夜。部屋に鍵はかけないでおく」
 異形の男はそれだけ告げて、私たちの部屋を去りました。

 そして、私たちは取り残されました。

卒業 17

BJ 8/7(火) 18:31:32 No.20070807183132 削除

 赤嶺が出て行った後―――
 しばし私はその場に立ち尽くして、畳の上にしゃがみこんで動かない妻を見つめていました。
 目の前のうなだれた妻の姿が、私の選択したことの結果でした。
 先ほどの赤嶺の行為は、一足先にそれを私に思い知らせるためのものだったのではないか。あの男が真実何を考えているかなんてまるで分からないものの、私は頭の片隅でふとそう感じていました。
 無言のまま、私は畳に膝をつき、妻のもとに這い寄りました。
 妻の前髪は乱れて目元にかかっていましたが、それを払いのけることもせず、妻はぼんやりと座っていました。横向きに倒した膝の浴衣の裾が割れて、真白なふくらはぎが露わになっていました。
 まるで犯された後のような妻の様子があまりにも痛々しくてたまらなくなった私は、正面から妻の肩を引き寄せ、その身体を抱きしめました。
「ごめん・・・瑞希」
 妻の身体の小鳥のような軽さに今さら驚きながら、私は必死の想いで囁きました。
「本当にごめん・・・・」
 文字にすればわずか三文字のその言葉のあまりのかるさ。それに少しでも重みを加えるためにも、私は何度も繰り返しその謝罪の言葉を口にし続けることしか出来ませんでした。
 こうして胸に抱きしめている温かいものの存在は、こんなにも私の心を切なく締めつけずにおかないのに。
 どうして私は彼女を傷つけずにいられないのか。
 なぜこうも罪深い妄執から逃れられないのか。
 赤嶺ならきっと簡単に理屈づけるであろうその答えは、今もって私の中にありませんでした。
 ふと、胸に抱きしめた温かいものが動くのを感じました。
「瑞希―――」
 言いかけた私の唇は、妻の唇で塞がれました。
 驚いたはずみに身を離そうとした私の頸を、妻の腕が抱きしめていました。
 その力は普段の彼女にはありえないほど強く。
 本当に、強く。
 なぜかそのことが私の胸を激しく揺さぶって、気がつくと、私は涙を流していました。
 すっと妻の唇が離れ―――
 曇った私の目に、同じように目尻を涙で濡らしている妻が映りました。
 私は彼女に向かって何かを言いました。おそらくはもう一度、謝罪の言葉を。しかしそれはまともな言葉にならず、私は重くてたまらない頭をがっくりと妻の胸に預けました。

「いいんです。赤嶺さんも仰っていたとおり・・・もう決心はついているんです」
 頭上で妻の声がしました。それはたしかに母親が子供に言い聞かすような、すべてを許そうとする言葉でした。
 私は―――妻の胸から身を起こし、首を振りました。
「駄目だ。瑞希は、俺のことを、決して許さないでくれ」
「・・・許すも許さないもありませんよ」
 妻の涙はすでに乾いていましたが、黒曜石のような瞳の光沢がその名残を伝えていました。
「夫婦・・・なんですから」
 幼いうちに父母と死に別れ、引き取られた叔父夫妻ともあまり折り合いが良くなかったらしい妻が、「夫婦」という言葉にどんな気持ちをこめているのか―――、私にはよく分かりません。けれども、彼女にとって、私が夫らしい夫にはなりきれなかったということだけはたしかでした。
 そればかりか―――
「―――昼御飯まだでしょう? 外へ食べに行きませんか」
 さりげない口調で言って、妻はじっと私を見つめました。
 その唇が動きました。
「あなたが泣くところを初めて見ました」
「・・・・・・・」
「いつも、私ばっかり泣いているのに」
 そう言って―――
 なぜかそのとき、妻はかすかに口元をほころばせ、そして、私の胸はずきりと痛みました。

 ようやく普段着に着替え、宿を出た私たちは天橋立駅へ向かう道を並んで歩きました。
 昨日までの日傘の代わりに、妻の左手は私の右手を握り締めていました。
 駅の前まで来たとき、私たちは笛の音を聞きました。どこかで聞いたことのあるようなメロディーに誘われるように少しだけ出来た人だかりの向こうに目をやると、そこには南米風の民族衣装を着た演奏家らしい男がいて、笛を吹いていました。
 私はそのメロディーをやっと思い出しました。その曲は“コンドルは飛んでいく”でした。
 立ち止まった私に合わせて妻も足を停め、男が流暢に演奏する笛の音色に耳を澄ませていました。
 やがて“コンドルは飛んでいく”は終わり、男は新たな曲に取り掛かります。
 今度の曲もまた耳馴染みの、というより、私と妻にとっては生涯でもっとも思い出深い曲、“サウンド・オブ・サイレンス”でした。
「卒業・・・・・」
 妻の呟く声が聞こえました。


 『卒業』という映画があります。
 1967年に公開されたこの映画は、主演ダスティン・ホフマンの名を一躍有名にした青春映画の古典で、劇中で流れるサイモン&ガーファンクルの主題歌“サウンド・オブ・サイレンス”とともに、日本でも広く親しまれています。
 この『卒業』は私と妻が初めて一緒に観た映画でした。
 私たちは見合い結婚でした。恋人期間を経ずに結婚したこともあって、新婚当初からずいぶん長いこと、私たちはぎこちない関係を続けていました。これではいけない、と気持ちは焦っていたのですが、時間が経っても打ち解ける気配を見せない妻に、私は戸惑っていたのです。
 『卒業』を見たのは、ちょうどその頃、結婚して約半年経過したある休日のこと。私から、妻に「映画でも観に行かないか?」と誘ったのでした。
「どんな映画が観たい?」
 私が聞くと、妻は静かに情報雑誌を眺めていましたが、やがてその視線はあるページで留まりました。そのページに載っていたのが『卒業』で、公開何十周年記念とかいう名目のリバイバル上映でした。
 古い映画を観る趣味はなかったのですが、『卒業』の名前は知っていて、青春恋愛映画のクラシックだということも知識にはありました。
 少しだけ意外でした。その頃の妻は表情も身のこなしも物堅い一方で、青春にも恋愛にもまったく興味がなさそうな女性に見えていたからです。そんな私の気持ちが伝わったのか、妻はちょっと羞ずかしそうな顔になって、「やっぱり、別のもっと新しい映画でいいです。私はもう何回も観ていますから」と言い訳するように言いました。
「いや、これでいいよ。俺はこの映画を観たことがないし、君がそんなに好き映画なら興味あるから」
 私が言うと、妻は、
「別に、そんなに好きな映画というわけでもないんですけど・・・」
 と、よく分からないことをまた言いましたが、結局、外着に着替えるために立ち上がったのでした。

 『卒業』の主人公はダスティン・ホフマン演じる大学生ベンジャミンです。映画の冒頭で、彼は両親の友人であるロビンソン夫妻の妻、ミセス・ロビンソンと不倫関係に陥るのですが、その後、夫妻の娘エレーンと恋に落ちます。しかし、上述の不倫関係がやがてエレーンの知るところとなり、二人の関係は一度破綻を迎えます。
 けれど、ベンジャミンはエレーンのことを諦めきれず、今の感覚で言えばストーカーのようにも感じられるしつこさで、エレーンに追いすがります。そしてやってくる有名なクライマックス、ベンジャミンはエレーンが別の男と結婚式を挙げている教会に駆けつけ、彼女を奪って逃げるのです。
 映画の内容で一番私の記憶に残ったのは、エレーンとの関係が破綻を迎えて以後、数々の惨めな想いを味わってなお、ベンジャミンが彼女のことを追いかけていく場面でした。男の哀れさ、ここに極まれりといった表情で、私だったらあんなふうにプライドも何もかも投げ捨てて、一途になれるだろうか、と、意味もなく我が身を振り返ったりしました。

 その日、梅田の小劇場で『卒業』を観て後、私と妻は近くの喫茶店に入りました。
 相変わらず口の重い妻に、私は今見た映画の感想、つまり上記の内容ですが、そのことを一方的に喋りました。
「君はあの映画のどこが好きなの? もう何回も観ているんだろ?」
 語り終わって妻に訊ねると、彼女は首を振って、
「そんなに好きな映画というわけではないんです。でも、忘れられなくて」
「忘れられない、というのは?」
「私がたぶん生まれて初めてちゃんと観た映画だということもあるんですけど・・・昔から、あのラストシーンが凄く印象に残っているんです」
「ラストシーンっていうと、主人公とヒロインが一緒にバスに乗って駆け落ちするところ?」
「そうです。あのバスの中のシーンで二人は最初笑顔なんですけど、すぐに不安そうな表情になるんですよね。お互い視線もろくに合わせないし、なんだか心配そうな顔をして、二人とも別々のことを考えながら、これから先の未来を憂えているような雰囲気で・・・」
「そうだったかな」
 私は記憶を探りました。言われてみると、妻の語るとおりだった気がしました。それまで、私には単純なハッピーエンドのように思えていたのですが―――
「その場面がずっと忘れられなくて・・・哀しくなるから、もう観たくないと思うんですけど、また観てしまうんです」
 呟くように言った妻の声には、たしかに哀切な感情が滲んでいました。
 そのとき、私は結婚して初めて、妻という女性の内面に少しだけ触れた気がしました。それと同時に感じたのは、同じ人間で同じように暮らしていても、その目に映って見える世界はまったく違うものなんだ、という今さらながらの実感でした。

 
 ―――あのとき、自分が感じた漠然とした感傷を、今こうして笛の音で奏でられる“サウンド・オブ・サイレンス”を聴きながら、私は思いだしていました。
 傍らに立つ妻は、瞳を閉じて笛の音色に耳を傾けています。
 先ほど「卒業・・・・・」と呟いたとき、妻が何を想っていたのか。
 何を想いながら、今もあの哀しげなメロディーに耳を澄ましているのか。
 旅立った先でベンジャミンとエレーンの二人がどんな未来を迎えたのか分からないのと同じように、私には今の妻の気持ちが分かりません。
 分かっているのはただひとつ、私たちもまた旅立ちの時期を迎えようとしているということだけです。
 そして私たちがこれから卒業しようとしているのは、妻がこれまで必死に守ろうとしてきた平穏な日常そのものでした。
 すぐに時間は過ぎ去り、日は暮れ落ち、夜がやってきます。
 あの男の待つ夜に。
 私と妻は今、バスに揺られているのです。
 そして、静かな教会から妻を連れ出し、その手を引いて、彼女をバスに乗せたのは私でした。
 “サウンド・オブ・サイレンス”―――沈黙の音が、終わりを告げました。私は妻の手を握りしめた右手に少しだけ力をこめました。妻がうっすらと瞳を開けて、私を見ました。
「・・・行こうよ」
 小さく告げて、私は歩き出しました。

卒業 18

BJ 8/10(金) 04:02:52 No.20070810040252 削除

 ゆっくりと雫が垂れ落ちるような時間が過ぎて、また、夜がやってきました。

 天橋立で迎える三度目の夜は、昨晩のように悪天候に見舞われることもなく、私の外側の世界は穏やかそのものでした。
 やがて朝が来て、この暗闇の結界が力を失う頃に、私はどんな顔を新しい日の光に晒しているのか。
 そして、妻は―――

 妻は夕方に一度駅前の温泉に行ったというのに、夕食後にもう一度、宿の湯へ浸かりにいきました。
 今宵、赤嶺の目に晒す己が身を浄めるために。
 その事実を噛み締めるだけで胸の内にぐずぐずと生じる、この不安と嫉妬の入り混じった気分の高まりはいったい何なのか。
 今まで幾度となく雪崩のように押し寄せてきたこの感情は、ついに私と妻の立っていた場所もろとも突き崩し、押し流してしまいました。
 その先に待つのは―――いったい何なのか。
 私は立ち上がって、窓を開けました。静謐な夜。暑かった昼間の残滓を含んだ空気に、蝉の鳴き声がかすかに響いています。
 そして結局禁煙に失敗した私の吐く紫煙は、吸い込まれるように、べっとりと暗い闇の中へ消えてゆきます。
 その煙を捕まえようとする行為くらい意味もなく、私は窓の外の虚空に手を伸ばしました。
 空には鋭い三日月がかかり、その蒼褪めた光は暗闇に伸びた私の腕を照らしていました。

 戸の開く音がして振り返ると、妻が戻ってきたところでした。
 普段と比べて少し面やつれしたように見えるその顔。装った表情の平静さと裏腹に、その顔は今にも崩れてしまいそうな危ういものを孕んでいるようでした。浄められたばかりの細身は、息苦しいまでにきっちりと着つけられた白の浴衣でよろわれています。
 そんな妻の姿に、私は今しがた見つめたばかりの三日月の幻影を重ねました。
 細く、鋭く、凛として、けれど今にも闇に呑まれてしまいそうな儚い美―――
 彼女の姿を見慣れた目にもそんな感慨を起こさせるほど、今宵の妻は綺麗に見えました。
 しかし、それを口に出すのは、私には出来ないことでした。
 
 しばしの間、私は無言のまま、静かな刻を過ごしました。
 それは私が今の私のままで、妻が今の妻のままでいられる最後の時間―――なのかもしれないのでした。
 けれど―――この瞬間に至っても、私の中にふつふつとわきおこる様々な想いの形は、妻の内面のそれと完全に一致してはいないのでしょう。
 私はそれを思ってひどく悲しい気持ちになりました。けれども、そのことで本当に悲しむべきなのは、悲しんでいるのは、やはり無言のまま座している妻のほうに違いありませんでした。

 言葉のない時間。しかし、私の耳にはあの沈黙の音がずっと流れ続けていました。
 妻の耳にもきっと、その音色は響いていたことでしょう。
 それだけは―――たしかなことでした。


 そして時は―――満ちました。

 私は目で、そのことを、妻に告げました。
 妻は、静かに立ち上がりました。
 私も立ち上がり、妻の前に立って戸を開きます。
 さすが格式の高い宿と言うべきなのか、黎明荘の客で夜中に騒ぐ者はいないようでした。
 だから、磨かれた木の廊下はとても静かでした。
 私はそのことを、ほんの少し、うとましく思いました。

 今度は妻が先に立って、廊下の道を歩み始めました。
 沈黙の音はとうに鳴りやんでいます。
 妻はそれこそ音もなく、ゆっくり歩を進めていきました。
 その粛々とした足取り。
 モノクロームのような光景の中で、薄い照明に照らされた妻のうなじだけが蒼みがかって見えます。
 途中で一度だけ、りん、と廊下が鳴いて、はっと現実に呼び戻されたような心地がしました。

 永遠のように思える一瞬が過ぎて、かすかに翻る妻の浴衣の裾がその動きを止めました。
 妻の前には、扉がありました。
 道行きの途中、妻は一度も私を振り返りませんでした。そのときもそうでした。しかし、私は妻がその瞬間、振り返らずに私を見たのを感じました。
 私はその視線を避けるようにすっと動いて、妻の前に立ちました。
 戸に手をかけるとき、その手が震えるのを私は抑えることが出来ませんでした。


 なぜなら、あの男は言っていたから。
 今夜は鍵をかけないでおく、と―――


 震える私の手で―――
 扉はゆっくりと開かれました。

 部屋の中に目をやったとき、異様な感覚がありました。すぐにそれは照明のせいだと分かります。この部屋の主である私の古い友人は、昔から宿に泊まると、その部屋の照明にスカーフなどをかぶせて自分好みに光を変える癖があるのです。
 そして今夜、彼の部屋の照明には茶褐色の薄布が巻きつけられていました。
 ただそれだけで、純和風のこの部屋はつくり変えられ、妖しい趣に満ちた異空間へと変貌を遂げていました。


 ―――変えてやるよ。


 それがこの男の生まれ持った性なのだ。

 私はぼんやりとそう感じました。


 男―――部屋の主は、部屋の奥に座っていました。

「―――遅かったじゃないか」

 錆のある低音でそう告げて―――
 男は立ち上がり、まっすぐに近づいてきます。
 深い海のようなその瞳は、まったく私のほうを向いていませんでした。

 この部屋に私たちが足を踏み入れた瞬間から―――
 男の目が見つめているのは―――

「さっきからずっと、待ちかねていたよ」

 すっ、と薄闇の中から太い腕が伸びて―――
 傍らの妻の手を掴み、自らの空間に引き入れました。

卒業 19

BJ 8/11(土) 04:07:53 No.20070811040753 削除

 茶褐色の薄布をかけられ、変色した照明の下に赤嶺は妻を引き入れ、立たせました。
 大柄な赤嶺と妻とでは、頭一つ分くらい身長の差があります。
 私の立つ場所から見える妻の後ろ姿は、赤嶺を前にしていつも以上に小さく、頼りないものに見えました。
「戸を閉めろよ」
 それまで私を無視していた赤嶺が、ようやく私に声をかけました。けれども、その視線は相変わらず妻を捉えたままでした。
 妻がどんな表情で立っているのか、私の位置からは見えません。
 私は振り返り、こわばった腕で戸を閉めました。
 戸の閉まった瞬間、異空間は完結しました。私と妻は蜘蛛の巣に絡めとられたのです。

 蜘蛛―――赤嶺はしばらくの間、じっと押し黙ったまま妻を見下ろしていました。
 うつむいた妻の顔はその間にもじりじりと伏せられていき、まるくやさしい線を描く肩も次第に下がっていきます。
 その肩に、赤嶺の両手が置かれました。
「―――綺麗だ」
 誉め言葉というよりも事実をそのまま告げただけのように、短くあっさりした言葉で告げて―――
 赤嶺は顔を寄せて、妻に口づけました。

 私の瞼はその瞬間に白く霞みました。

 私の立つ場所からは、二人の唇が触れ合っているその様は見えません。
 見えたのは―――赤嶺の両手に押さえられた妻の肩が、ひくり、と動いたその動作だけでした。
 今朝のようには、妻はもはや抗いませんでした。思わず動いてしまったような肩の動きの後には、彫像のように身動きもせず、従容と赤嶺の唇を受け入れていました。

 自分を愛していると言う夫。その夫によって他の男に抱かれてくれと望まれる矛盾。当の夫の胸の内ですら未だ乗り越えられないその矛盾を、今の妻が心中でどう処理しているのかは分かりません。けれども静かに赤嶺の唇を受け入れる妻の様子からは、己が身が今夜、眼前の男への供物になるという現実をしっかりと認識しているようでした。
 切り捨てようと決意してした鈍い痛みが、私の中で蘇りました。けれどもその痛みが私の意識の刃を尖らせ、身中にやるせない疼きをもたらすこともまた事実なのです。
 それは私にとって、そして妻にとって、何より残酷な事実、でした。

 しかし、今この瞬間も妻に口づけている男には、妻の痛みも私の痛みも徹底的に無価値なのです。

 ゆらり、と―――
 妻の唇を奪い、離さないままの赤嶺の瞳が動いて、その夜初めて私を見つめました。
 薄暗いこの部屋の中で、そこだけ本当に漆黒のその瞳に貫かれた瞬間、私の身体にぞわりと痺れが走りました。
 そんな私の反応を愉しむように、赤嶺の目元がわずかに光り―――
 同時に、妻の両肩に置かれたままだった赤嶺の手が動いて、妻の浴衣の帯に伸びました。
 手品のようにあっさりと、堅く巻き締められた帯紐は解かれ、するりと床に落ちます。
 赤嶺はそこでようやく妻から顔を離しました。瞬間、妻の後ろ姿がくらりと揺れた気がしました。

 赤嶺は私から視線を離し、妻を見つめてふっと笑いました。
 この男は昔からよく笑う男でした。
 皮肉に、不敵に、或いは底抜けに笑う男。
 彼の眼前に立つ女は、あまり笑わない、物静かな女でした。
 そして時折見せる彼女の笑顔は、いつもどこか淋しげな気配を含んでいました。

 まったく別種の性質を持つ二人の男女。けれど―――


 ―――そんなことは結局関係がないのさ。


 再び赤嶺の手が動き、妻の両肩から浴衣を剥ぎ落としました。
 果実の皮を剥くような簡単さで、下着のみを残した白い裸身が露わになりました。

「貴女の身体を拝見するのは一年ぶりだ」
 低く囁くような声で、赤嶺が言うのが聞こえます。
 妻は答えません。また、うつむこうとするその顎を赤嶺の右の手指がつかまえ、上向かせました。
「けれども、少しも変わっていない。いや、むしろ魅力的になったように感じる。肉付きがよくなったせいかな。昔の貴女も美しかったが、少し痩せすぎだった」
 上向かせた妻の顔を見下ろしながら、赤嶺は淡々と言いました。
 妻の肩がまた、ひくり、と動いたのが見えました。
 今この瞬間に妻がどんな表情をしているのか―――
 狂おしいほどにそれを知りたいと思いながら、私の足は床にべっとりと張り付いたまま微動だにしないのです。
 すっと赤嶺の身体が動き、妻の背後に回りました。
 動けない私と同様に、妻も呪縛されたように顔を上向けたまま、同じ姿勢で立ち尽くしています。
 妻の背後に回った赤嶺は私などには目もくれず、すべやかな背肌を舐めるような視線で眺めやりました。
 やがて、赤嶺の手がすっと妻の背に伸びて―――
 はらり、と妻の胸を覆っていた下着が落ちました。
 私の唇から音のない声が洩れます。同時に、ようやく呪縛が解け、妻はしゃがみこんで両腕で胸を隠そうとしました。
 ―――その腕を、赤嶺の太い手が捕らえました。
 妻の腕を掴んだのとは別の赤嶺の手には、いつの間にか、先ほど解かれた浴衣の帯紐が握られていました。

「さしあたりこれは必要がないから、しばらく封じさせてもらうよ」

 判じ物めいた言葉を吐いた後―――
 赤嶺は素早く動いて、妻の両手首を背中に回し、紺の帯紐を巻きつけました。

 あっという間に、妻は後ろ手に鎖縛られ、自由を失いました。
 縛られた後もなお、妻はさかんに固定された両手を動かして、逃れようとする動きを見せました。今夜、彼女が見せる初めての本格的な動揺。けれども、それは見ていて痛々しくなるような果敢ないあらがいでした。赤嶺はそんな彼女のむなしい動作を目を細めて見やった後、ゆったりとした動作で彼女を背後から抱きしめました。
 赤嶺の厚い胸板に覆われて、妻の身体の動きが鎮まりました。
 私の目には二人の後ろ姿しか見えません。けれど、赤嶺の両手は剥き出しになった妻のまろやかな乳房をすっぽりと握り締めている―――はずでした。
 胃の腑の底が、じわりと熱くなりました。
 妻は一瞬、またあらがう動きを見せました。しかし赤嶺の腕がもぞりと動くと、
「あ・・・・・」
 どこをどうされたのか、か細い声を上げて妻の動きが止まりました。


「この胸に触れるのも一年ぶりだね」


 慣れ親しんだ情人のように囁く声。


「やはり前よりも少し大きくなったかな。綺麗な胸だ。やわらかくて、揉み心地もいい」


 赤嶺の腕がまた動き、妻の背中がかすかに揺れ、私の舌は乾いていました。



妻の入院 70
医薬情報担当 8/10(金) 19:22:19 No.20070810192219 削除
 乳房の形が変わるほどに握りしめられ、指先で、クリクリとつまみ上げるように強く弄ばれていても、妻は、痛みを訴えません。
 誰が、どう聞いても、その声は、快楽を訴える淫声そのものだったのです。
 それでも、妻はわが身の家からわき起こってくる、オンナの本能と懸命に闘っていました。
「あぁ、やめて、とって、とってったら」
 妻の懸命な声が時折聞こえるのです。
しかし、懸命に訴えても、その自分の言葉すら身体が裏切って、腰がゆっくりとうねるように動くのが止まりませんでした。
 男の両手は、絶えず、動き続け、腰から脇を撫で上げ、乳房を絞り上げては、乳首を摘む動作を、しつこく繰り返しています。
 あのローションが妻にどう影響しているのでしょうか。
『たまらなくなる』
 秘唇を圧迫されたまま、ローションをすり込まれるように、嬲られ続けているのです。
  山村看護師が漏らしていた言葉どおりだとするなら、妻の身体中には、オンナの快楽の炎がどうしようもないほど燃え上がっているはずでした。
 懸命にこらえようとする妻の腰が、ともすると男のモノをくわえ込もうと動くのも無理からぬことかもしれません。
 しばらく、味わっていない妻の美肉の感触を思い出していました。
 セックスを始める時は、処女かと思うほどひっそりと閉じたその部分が、ひとたび濡れてしまうと、途方もない柔らかなぬかるみと化すのです。
 私の怒張は、そのぬかるみに包みこまれ、そのつもりが無くとも、奥までズブリと一気に飲み込むように入ってしまうのが、いつものことでした。
 そのくせ、ピッチリと隙間無く包み込む感触は、やわやわと微妙にうねりながら強烈に締め付けてくるのです。
 ことに、妻が恥ずかしがるのを無視して、一気に攻めつけ、脚を思いっきり広げて奥まで入れると、先端がプニプニした子宮に包み込まれるのです。
 軟らかな肉ヒダは、数段に別れてギュッと絞るように締め付けてくるのと合わさって、最高の感触なのです。
 ともすると、自分の怒張がどのように妻に包まれているのかわからなくなるような気さえするのです。
 今、男の怒張は、その軟らかな肉の入り口に押し当てられているのです。
 身体が邪魔して、どのようになっているのかは見えませんが、妻のあの狼狽ぶりからすれば、その先端の丸みが、妻の肉ヒダをかき分けるように、くっついているはずです。
 いえ、あれほど、うねうねと腰が動いていれば、次第に、奥へ奥へと怒張を誘い込むように美肉がうごめいているはずです。
 ひょとして、松ぼっくりのような、その大きな丸みを持った先端が、すでに、半分くらいは埋もれているかもしれません。
 男の身体越しに見る妻の腰は、抑えようとしてもじっとしていられないように見えます。
 その、淫らな動きは、妻の意識がオンナの快楽に飲み込まれてしまったように見えていました。
『美穂、がんばってくれ』
 情けない私は、心の中で、届きもしない声援を送るしかありませんでした。

卒業 20

BJ 8/12(日) 05:16:56 No.20070812051656 削除

 私の心臓はすでに破裂しそうなほど脈動を早めていました。
 死の予感すら感じるほどに。
 いや、それは予感などではなく―――
 今宵、本当に、私の心は死ぬのでしょう。
 それは確信に限りない感覚でした。

「何にそんなに怯えているの?」

 赤嶺の声がして、私ははっと顔を上向けました。
 その言葉は無論のこと私に向けられたものではなく、妻の耳元に囁かれたものでした。

「さっきから、ひどく震えている」

 赤嶺の声は普段の彼からは信じられないほど優しい口調でしたが、私にはそれは悪魔の優しさに思えました。
 そして、今ここでこうして震えている私は、悪魔メフィストフェレスに自身の一番大切なものを差し出したファウストなのです。

 赤嶺の身が妻からわずかに離れ、浅黒い手が妻のなめらかな二の腕を優しくさするのが見えました。

「何も心配することはない。貴女は今夜、愉しむためにここへ来たのだ」

 愉しむ―――

 妻の両手を拘束して自由を奪った人間とも思えぬ言葉を吐いて、赤嶺はくるりと振り返り、私を見つめました。


「―――お前は壁だ」


 出し抜けに、赤嶺はそんなことを言いました。

「だから、動けないし、喋れない。ただそこに在るだけのモノだ」

 まるで事実そのままを告げるように、艶のある低音が響き渡ります。
 炯炯たる眼光が催眠術師のそれのように、異様な力で私を見据えていました。
 催眠―――。実際、この部屋の妖しく変えられた照明の光や、赤嶺の態度はまるで暗示をかける術師のもののようでした。
 頭の片隅でそんなことを考えながら、私はどうしても赤嶺の―――メフィストの視線から逃れられずにいました。

 赤嶺はそんな私をしばし見据えた後で踵を返し、部屋の隅に片付けられていた卓の上から薄い布切れを摘まみ上げ、もう一度妻の背後に戻りました。
「これから貴女の視界を奪う。貴女がより気兼ねなく、この夜を愉しめるようにね」
 赤嶺が囁きかけると、妻は一瞬その意味を考えたようでしたが、すぐにいやいやとかぶりを振りました。
「大丈夫。不安に思うことは何もないとさっき言っただろう。貴女はもう何も考える必要はないし、胸を痛める必要もない」
 言いながら赤嶺は妻の肩を抱き、ゆっくりと降り向かせようとしました。
「いや・・・・」
 そのことで、妻は先ほどよりも強いあらがいを示しました。
「いや? 振り返るのが? どうしてかな。後ろに彼がいるからなのかい」
 芝居がかった口調で言って、赤嶺は酷薄な微笑を浮かべました。


「心配しなくてもいいよ。後ろにいるのは貴女の主人などではない。―――ただの壁だ」


 そう告げられた瞬間―――
 自らの表情がぐにゃりと歪むのを私は感じました。
 なぜなら赤嶺の言葉はただの戯言ではなく、私という人間のすべてを否定し、粉々に打ち砕く言葉だったから―――

 赤嶺の言葉に、いっそう妻は抵抗を激しくしました。けれども、男の腕力は、強引に妻を振り向かせました。

 恐怖―――
 それがその瞬間に私の感じていたすべてでした。今の私という人間を、妻に見られることに対する恐怖、でした。


 怯えた妻の瞳が、私を捉えました。


 私の背筋に震えが走ります。


 妻の瞳が見開かれました。


「ごらん、あそこには何もない。ただの壁があるだけだろう」

 赤嶺の囁き声が、どこかで聞こえました。

卒業 21

BJ 8/13(月) 03:19:15 No.20070813031915 削除

「もう―――やめて」

 細く高い声で、私の意識の空白は破られました。

 濁っていた私の視界に、再び妻が映ります。
 後ろ手に縛られた裸身を震わせるようにして、彼女は赤嶺の胸に顔を埋めていました。
 その肩は、しゃくりあげるように動いていました。
 赤嶺はそんな妻をしばし見つめていましたが、ふっと彼女の背後に回り、縛り合わされた両腕をぐいっと掴み下げました。
「あ・・・・・・」
 白い乳房がかすかに揺れ―――
 小さく声をあげた妻の上半身が上向いて、私の顔を正面に捉えます。
 

 私と妻の視線が―――絡みました。
 先程まで怯え、竦んでいた瞳が、今は放心したように揺れ動きながら、私を見つめています。
 その瞳を、後ろから赤嶺の巻きつけた薄布が隠しました。
 視界を奪われる瞬間、色を失った妻の唇がひくっと震え、白い歯がこぼれました。


 私は無意識に妻の名前を叫んでいました。
 けれども、それは声にならなかったのか、妻も赤嶺も反応を示しませんでした。
 ああ、聞こえないのか―――
 無理もない、と私は思います。
 あの男の言うとおり、私はただの―――


 手の自由も、視界までも奪われた妻は足元をふらつかせました。変色した光が妖しく照らすその下で、白くすべやかな裸身がくらくらと舞い動き、床に倒れる寸前で、赤嶺に背中を受け止められました。
「落ち着いて。心配ない。さっきも言ったように、瑞希はもうわずらわしいことからすべて解放されているのさ」
 瑞希。
 赤嶺は初めて妻の名を呼び捨てにしました。
 いえ、初めてではありません。
 一年前のあのときも、この男は妻のことをそう呼んでいました。
「何も考えてはいけない。悩むこともない。ただ歓びを感じればそれだけでいい」
 赤嶺は執拗に「考えるな」と繰り返し、妻に囁きます。
 何もかも忘れて、歓びだけを感じろ、と。
 それは妻に動物になれ、と言っているのと同じです。
 動物の―――牝に。

 赤嶺は妻を抱きかかえたまま、卓の上に腰掛けました。
 浴衣姿の赤嶺、彼の膝上には半裸の妻、その2メートルばかり離れた場所に壁と化した私が立っています。
 そろり、と赤嶺の手が最後に残された妻の下着に忍び入りました。
 くっ、と呻いて妻はあらがおうとしますが、その両手はすでに封じられてるのです。
 笑みながら赤嶺はそんな妻の細い頸に唇を這わせました。
「う・・・・・」
 かすかな声が洩れ聞こえました。
「敏感だな」
 赤嶺はくすりとまた笑うと、妻の眉間に深い縦皺が寄るのが見えました。
「取り繕うのはよしたほうがいい。ここには―――二人しかいないんだ」
 そう囁く赤嶺の目は、今度はしっかりと私を捉えていました。

 息を―――呑みました。

「今夜はすべてを見せてもらうよ」
 言いながら、赤嶺の手が動き、妻の最後の下着を取り去ろうとします。もじもじと脚を動かして、妻は必死に抵抗しますが、無駄なことでした。
 するすると、ささやかな繊毛の叢が露わになり―――

 妻は、生まれたままの素裸になりました。

 裸に剥かれた瞬間、妻はくうっと啼いて目隠しされた頭をむやみに振りました。
 頬が羞恥の色に染まっているのが、遠目からでもはっきりと見えます。
 薄明かりの部屋の中心。妻の雪白の裸身は暗い背景に映えています。
 闇に咲いた白い百合のように。
 その花に、闇そのもののような男が囁きかけます。
「やっと瑞希の身体で一番見たかった部分を見ることが出来た。身体つきは少し変わったが、ここの毛の生えぶりは少しも変わっていないな」
 からかうように言って、赤嶺の手指が艶のある妻の繊毛を梳きました。
 妻がもう一度、くうっと啼きました。
「いい毛触りだ」
 赤嶺は言い、妻のその部分を指でとんとんと軽くたたきました。
「ん・・・・っ」
 妻の朱唇から声があふれます。
「ふふ、柔らかい。ぞくぞくするね。早くこの中に入りたいと、俺の息子がわめいているのが感じられるだろう?」
 赤嶺の股間に乗せ上げられた妻の臀部がもぞりと動くのが見えました。
 私の腋下に、汗が、つっと伝います。
「でも焦るのはよくないな。極上のワインが手に入ったら、まず目で楽しみ、香りを楽しみ、その後でやっと味を愉しむ―――らしいから」
 自分の言葉を自ら茶化して、赤嶺は両手を妻の膝の下に差し入れました。真白なふくらはぎから太腿にかけての肉をニ、三度淫猥な手つきで撫で回した後、不意に赤嶺はその膝を両手で掴んでぐいっと押し広げました。
「ああ――――!」
 思わず弾き出たような妻の悲鳴、不自由な身での抵抗を、むしろ楽しむようにしながら、赤嶺は無情な手を進めていきました。

 私の真正面、卓の上に腰掛けた赤嶺。
 その男の上で、妻の身体の花芯にあたる部分が露わにされました。
 広げられた内股の眩しさと裏腹な、漆黒の繊毛。
 その繊毛の奥の、鮮やかな紅の裂け目。
 均整のとれた妻の肢体の中心に、そこだけ違和感のある生々しい女の器官。
 性器―――


 非現実的な光景でした。
 自分の目の前で妻が他の男に脚を開かされ、女性器を露出させている、その光景。
 それは幻怪で、狂的で―――
 眼球が割れそうに思えるくらい、
 卑猥、でした。


 妻はもがいていました。網の中に捕らえられた蝶が羽をばたつかせるように、哀れに身をよじって。
 けれども、両手を後ろに縛られた身ではその抵抗は、なめらかな腹から股間にかけてを波立たせるような、むしろより扇情的にさえ見える動作にしかならないのです。
 そして、実際に赤嶺は妻のそんな恥じらいの極みといった動きを、本当に楽しそうな目で見つめていました。
 ゆっくりと、赤嶺は妻の耳元に口を近づけ、その耳たぶを唇でやさしく噛みました。
 妻の総身が硬直します。
 耳たぶを噛んだ赤嶺の唇が、離れました。
「何をそんなに慌てているんだい。さっき予告しておいただろう。今夜はすべてを見せてもらう、とね」
 言い終わると同時に、ねっとりと赤い舌が妻の耳を這い―――
 広げられた太腿の中心に、節くれ立った男の指が伸びました。

「やめ――――」

 その叫びが終わるよりも早く、花弁は摘まみとられ、そして妻の秘部は光の下でくつろげられていました。

卒業 22

BJ 8/13(月) 22:30:23 No.20070813223023 削除

 艶々とピンク色に光る妻の身体の中心に押し込まれた赤嶺の左右の人差し指は、これ以上ないほど肉の輪をくつろげ、その微細な中の構造まで剥き出しにさせています。
 幻燈に照らされて濃密に息づいたその紅い花が、瞳に灼きつくようで―――

 くらくらと私は眩暈を感じました。

「あう・・・・うっ・・・・」
 妻はしばらくの間、顔を左右に振りたくって羞恥刑から逃れようとしていましたが、そのうち、がっくりと頸を折って、赤嶺の肩に頭を預けました。
 花弁の奥まで剥き出しにされた花の紅さが広がっていくように、妻の色白の総身は仄かに色づき、特に隠された目元から頬にかけて、きわどく紅潮していました。
「瑞希のここは綺麗な色をしている。形も崩れていない。いいオ**コだよ」
 差し込んだ指でその部分をぴんぴんと広げながら、赤嶺は妻に卑語を囁きかけます。
「言わないで・・・・」
 消え入りそうな声で妻は言い、朱に染まった顔を赤嶺の肩にぐいぐいと押し付けて、隠そうとしました。捻じ曲がった頸や横顔に、乱れた黒髪が幾筋も落ちていました。
「あいにく美しいと思ったものには賞賛を惜しまないたちでね。それにしても瑞希のここは熱いな。指が火傷しそうだ」
 赤嶺のからかいに、妻の喉から短い悲鳴に似た声がしました。もう一度、じたばたとあらがおうとした妻の脚を自らの脚と腕でがっちり押さえつつ、赤嶺は柔肉に差し込んだ指の一方を外して秘口の縁取りをつっとなぞります。妻の太腿が攣ったようにぴくっとふるえました。敏感な反応に、赤嶺はくっと笑いながら、肉の閉じ目の上部に位置する薄桃の突起に指を這わせ、かるく摘み上げました。
「あうっ」
 美しくくびれた細腰から体格のわりに豊かな臀にかけて、妻の肢体に痺れが走ったのが見えました。
「いい反応だ」
 低いのによく響く声で赤嶺は言い、摘まんだ肉芽を抓るように今度はきつく指に力をこめました。
「んんんっ!」
 先程よりも強く妻の総身に雷撃が走り、耐え切れずに大きな声があふれ出ました。
「痛いのか? それとも気持ちがいいのかな? 瑞希の反応を見ていると、どちらにも取れるね」
「・・・・痛い・・・・」
 妻の息はすでに荒く、ようやく絞り出したような声は切れ切れでした。かすかに汗ばんだ胸元が大きく隆起しているのが見えます。
「それは悪いことをした」
 冗談めかして赤嶺は言い、緋色に染まった突起を親指と人差し指の腹で優しくさすりだしました。同時に柔肉に押し込んだ指を微妙に動かします。
「くう・・・・・っ」
 妻の鼻腔から息が吹き零れました。
 女性の快楽の壷を知り尽くした赤嶺の手先―――
 一定のリズムを保って馬を御していくような、憎らしいほど悠然としたその手指の動きに、妻の顔は先程までとは違う苦悶に顰められていきます。寄せられた眉根のあわいが時折、ひくひくと切なげに動きます。
 肉芽をやわやわと揉みあげながら、ぱっくりと開いた性器の外周と花びらの間の溝に、赤嶺は執拗に指を這わせ、撫で回します。同時に、ふるえを止められない妻の細い肩先から、微妙な陰影を刻む美しい鎖骨の線の辺りまで赤嶺の唇は這い寄り、妻の躯に秘められたいくつもの感応を呼び起こしていくのです。 
「ああ――――」
 思わず洩れた妻の吐息に、すすり泣くような響きが混じりました。
 その声はぞっとするほど哀切で、聞いている私までがおかしくなりそうで―――
 だというのに、私は異常に昂っていました。興奮と哀れみが混じりあい、狂おしいほど熱を持った目で、私は赤嶺に嬲られる妻を見つめていました。

 一年前、これとよく似た光景を、私はたしかに見たのです。
 脳髄に染みこむようなそのときの幻影は、あれからずっと私の脳裏に揺曳していました。
 ずっと、長い間―――
 そして、今まさにその光景は、現実に、再現されようとしていました。
 私の眼前で―――

「くっ・・・・・んん・・・・っ」

 赤嶺の指が蠢く度にめくり返される妻の汀。躯中の血が集まったようなその紅の濃淡が艶やかに光り、いつの間にあふれだした透明液が花びらにしたたって、妖しくきらめいていました。

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